「こんなとき、どうする?」~知って得する不動産コラム~

2021.09.01

vol.5 【専門家監修】不動産の相続トラブル!よくある事例と解決法

土地や建物などの不動産は金融資産のように均等に分割することが難しいため、親族間でトラブルになりやすい財産でもあります。
 
最高裁判所が作成した司法統計によると、遺産分割事件の件数は2012年には約11,000件だったものが、2018年には約13,000件まで増加。相続に関わるトラブルは増加傾向にあることがわかります。
 
そこで今回は、不動産相続で起こりやすいトラブルをご紹介。
 
今まさに不動産相続に直面している方はもちろん、今後のために準備をしたい方に向けて、不動産相続のトラブル実例と具体的な回避策をお届けします。

法律に定められた財産の分け方とは?

亡くなった人の財産を誰がいくらもらうかという配分は法律上「法定相続分」として定められています。
 
相続人の配偶者は常に相続人とされ、配偶者以外の親族については以下のように順位が決められており、順位の異なる親族が同時に相続人になることはありません。
 
第1順位:被相続人の子どもや孫(子どもが亡くなっている場合)
第2順位:被相続人の父母や祖父母(父母が亡くなっている場合)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹
 
法定相続分は以下のように分配されます。

こんな時どうする?
ケース① 実家を相続したい長女。ほかの兄弟との取り分をめぐってトラブル

■家族構成:父親、母親、子ども(長男、長女、次男)

父親の介護をしながら両親と同居していた長女。長男、次男は実家を出て暮らしています。父親の死後、長女は母親と一緒に実家に住み続けることを考えているため、実家の相続を希望しています。すると長男、次男は得るべき持分を要求。長女は金銭的に余裕がないため、支払いをめぐって兄弟間で対立しています。
 
 
そもそも兄弟間では民法で定められた相続割合である「法定相続分」は平等に与えられた権利です。兄弟が自身の法定相続分を請求することは当然の権利ともいえます。
 
今回のように兄弟のなかで、一人だけが実家を取得する場合には、共有不動産の分け方として「代償分割」の方法が考えられます。「代償分割」とは特定の相続人が現物の相続財産を取得する代わりに他の相続人に対して相続分に応じた金銭(代償金)を支払って調整する分割方法です。
 
代償金は兄弟間の話し合いにもよりますが、不動産の評価額などに応じて持分割合に相当する金額がその他の相続人に支払われます。
 
しかし代償金は大きな負担となり、支払い自体が難しくなることもあります。
 
今回のケースは母親が健在なため、例えば一次相続(父親の相続)において、母親と長女が実家を相続します。その後の二次相続(母親の相続)において長女が実家を相続するという形にすると、一度に支払う代償金の負担を減らすことが出来る場合があります。
 
亡くなった父親の資産状況は自宅(時価5000万円)と預貯金1000万円。
実家は母親と長女で共有として相続し、預貯金1000万円を兄弟に500万円ずつ渡します。さらに長女は兄弟にそれぞれ500万円ずつの代償金(合計1000万円)を渡すことで法定相続分1,000万円ずつを平等に分けることができます。
その後母親が亡くなり母親の遺産を相続(二次相続)する際には、母親の実家の持分の資産(長女と共有しているため2500万円)と預貯金800万円の合計3,300万円が相続対象となります。
 
1人当たりの法定相続分は1,100万円。長女が2,500万円の実家持分を取得する場合、まずは母親の預貯金を長男次男に400万円ずつ渡します。さらに代償金をそれぞれ700万円ずつ支払うことで兄弟全員が1,100万円ずつの価値を手にでき、平等に遺産を分け合うことになるのです。
 
ここでポイントになるのが、一次相続において実家を100%母親名義にして長女が母親から預貯金を相続したり、代償金をもらったりすると、二次相続の際にさらに代償金の支払いが大変になってしまう可能性があるという点です。
 
というのも、一次相続において実家を100%母親名義にした場合、母親の死後、5,000万円相当の実家を兄弟で相続することになります。法定相続分に対応する長女の実家持分は1/3(1,666万円余り)しか認められず、兄弟に対して残り2/3(3,332万円余り)の代償金の支払いが生じてしまいます。一次相続において、母親と名義を共有しておくことで、長女は実家を順次相続していくことができ、長女の代償金の負担を抑えることが可能になるケースもあります。(ただし二次相続の際にも相続財産に預貯金があるといった事情の場合に限ります)
 
なお、代償金が今すぐ支払えない場合は相続人の同意が得られれば、分割払いが可能です。ただし金銭の支払を受ける側は将来的に支払われないリスクがあるため、遺産分割で合意した内容を文書化する「遺産分割協議書」に支払い時期などを明記しておくとよいでしょう。なお、公正証書で遺産分割協議書を作成した場合、支払われない代償金について強制執行をすることができます。
【結論】
兄弟間では「法定相続分」は平等に与えられた権利のため、兄弟の言い分は認められます。そのため長女は実家を相続する代わりに、兄弟に代償金を支払う義務があります。

こんな時どうする?
ケース② 父親所有の収益物件を管理していた長男。父親の死後に思わぬトラブル

■家族構成:父親、母親(すでに死亡)、子ども(長男、次男、三男)

生前父親は収益物件を所有していました。長男は父親から実質経営の全てを任されており、長男はアパート経営の収益で生計を立てています。しかし父親は遺言書を残していなかったことから、父親の死後、ほかの兄弟から賃料を分けてほしいという声が上がりました。そもそもアパート経営には関与していない兄弟への支払い義務はあるのでしょうか?
あくまで所有者は亡くなった父親であるため、遺言書がない場合、父親の遺産であるアパートは、長男、次男及び三男3人の共有(持分3分の1ずつ)となります。そして、アパートを共有している人は、その収益を受け取る権利があります。したがって、長男は、次男及び三男に対して、それぞれアパートの収益(売上から経費を控除した金額)の3分の1ずつを支払う義務が生じます。ただし、どう分けるかは兄弟間の話し合いにもよりますので、法定相続分と異なる分け方も可能です。
 
父親の遺産であるアパートは、アパートを相続する相続人が確定するまでの間、兄弟で共有することとなります。仮に、長男が「アパートの相続人が決まってから家賃を支払う」と主張したとしても、兄弟が賃料をもらう権利は遺産分割により「誰がアパートを取得することになるか」とは関係ないとされます。
 
遺言書がない限り、収益物件は相続開始から遺産分割までの間は共同相続人の共有物と扱われてしまいます。その間に生じた不動産の賃料は遺産とは別個の財産であり、共同相続人が相続分に応じて取得することが可能です。
 
今回のケースは家賃収入で生計をたてる長男にとって大きな負担になります。これまで長男がすべての管理を行っていたことを加味して金額の調整を行うことで、長男の負担を軽減できることもあるかもしれません。
【結論】
父親の財産は子どもたちの共有財産となるため、相続人が決まるまでの期間、長男は兄弟に収益の3分の1ずつをを支払う義務が生じます。ただし分け方は話し合いで調整可能です。

こんな時どうする?
ケース③ 生前贈与された土地の価値がアップ!? 評価額で大もめ

家族構成:父親、母親(すでに死亡)、子ども(長男、長女)

父親が亡くなり、長男に生前土地が贈与されていることがわかりました。9年前は1000万円だった土地はその後近くに駅ができたことで価値が2000万円にまで上がっています。長男はもらった時点の安い値段で評価されると主張していますが、実際はどうなのでしょうか?
 
 
相続人が被相続人から生前に受けた贈与のうち、一定のものを「特別受益」と言います。特別受益の典型例は、本件のように居住用の土地の生前贈与を受けたケースです。
 
さて、特別受益と評価される贈与対象物の金銭評価は、いつの時点になのでしょうか。特別受益の評価時点については、贈与を受けた当時ではなく「相続開始時」とされ、相続開始時の当該土地の価値を基準に具体的な相続分を検討することになります。今回のケースであれば、土地は2000万円として評価されることになります。
なお、相続人間の公平を図るために、特別受益を受けた相続人がいる場合は相続分の前渡しとみて、特別受益と評価された贈与は、相続財産に加算されて相続分は算定されます。よって、特別受益を受けた相続人が取得する遺産は、特別受益と評価された贈与分が控除されることになります。
 
今回のケースであれば、土地の評価時点が相続開始時と分かった場合、贈与を受けた土地の評価額でトラブルになることが考えられるでしょう。
 
特別受益を受けた長男はできれば安く、特別受益を受けてない長女はできるだけ高く評価してほしいと考えるからです。土地の評価額によって兄弟の持分が減ったり増えたり大きく影響するため、争いはヒートアップしてしまいます。
 
評価額が兄弟間で決まらない場合には、裁判所において鑑定を行い、その評価額によることとなります。しかし鑑定人の費用は物件にもよりますが、通常の戸建てでも50万円程度かかることがあります。さらに費用は相続人で負担しなければなりません。鑑定を依頼するだけでも手間とお金の負担額が大きいため、最終的にはお互いに依頼した査定額を持ち寄り、話し合いで調整するケースがほとんどです。
【結論】
長男が父親から生前に贈与された土地は「特別受益」と見なされます。特別受益の評価時点は「相続開始時」のため、土地は2000万円として評価されることになります。
【コラム】
遺産を相続したくない場合はどうする?
例えば親に多額の借金があり相続したくないという場合には「相続放棄」を選択できます。ただし相続放棄には期間制限があり、被相続人が亡くなったことを知り、かつ自分が相続人であることを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てが必要となります。
 
なかには相続する財産に負債があるけれど資産もあるという状況ですぐに判断できない場合もあるでしょう。そのような場合は、相続放棄をするまでの期間を延長(熟慮期間の伸長)することも可能です。相続放棄の期間を延長する場合は、申立書と添付書類を揃えて家庭裁判所で手続きを行います。

トラブル回避!不動産相続で注意したいポイント

相続問題で揉めないために、今からどんな準備をしておけばよいのでしょうか?万が一に備えておくことは、未来を変える大切なポイントになります。

1. 親が生きているうちに話し合いをする

相続トラブルを避けるためには、可能であれば親の意思と子の要求を出し合って方向性を決めておくのが理想的です。トラブルの最も多い原因はコミュニケーション不足により相続人同士が疑心暗鬼の状態に陥ることです。遺産分割に対する考え方にも齟齬が発生し、ますます対立を深めてしまうことにもなりかねません。

2. 遺言書を残す

親子で合意していても、遺言書は必ず残しておきましょう。口約束では親が亡くなった後に、親の意向を証明する手段がなくなってしまいます。遺言書は法律的な強制力を持つという意味でも最も有効なトラブル回避手段です。
 
とはいえ、遺言書が100%有効にならないケースもあります。遺言を残す側は自分の財産を誰に、どのように相続させるかを自由に決められますが、法定相続人には、最低限保障される遺留分があります。例えば遺言書で「長男に遺産のすべてを相続させる」とされていた場合でも、一定の範囲の相続人は主張すれば必ず一定の財産が取得できます。仮に長男が要求に応じない場合は「遺留分侵害額請求」訴訟を提起し、裁判で争うことになるでしょう。

3. 家族信託

例えば親が認知症になった場合、判断能力もなくなり、自分で自分の財産を管理することができなくなってしまいます。そんな万が一の場合に備えるために「家族信託」という制度があります。家族信託は親が自分で財産管理ができなくなることに備え、家族に自分の財産の管理や処分の権限を与えておく方法です。親の財産の管理を信頼できる家族に託し、委託者(親)と受託者(子)が信託関係を結ぶことで利用できる制度です。
 
委託者(親)の財産は信託財産として名義が受託者(子)に変わりますが、親は引き続き受益者として自分の財産を使うことが可能です。その後、親が認知症を発症したときは子(受託者)が柔軟に信託財産の処分などの判断をして実行することができます。
 
家族信託は公正証書で信託契約書を作成しますが、専門家への相談料や契約書作成料は遺言書作成より高めとなります。(数十万円程度)

不動産相続で悩んだらまずは情報を集めよう

不動産相続は金銭がからむ問題であるため、親族間でもめやすい傾向にあります。さらに法律上の決まり事も複雑であるため、一人ではなかなか解決できないことばかりだと思います。そのため「どのような分配が適切なのか」、「売却すべきか持ち続けるべきか」などさまざまな悩みを解決するには、正しい情報を得ることが必要です。不動産会社でも土地・家屋の相続に関するさまざま相談を受け付けているため、まずは相談することから始めてみてはいかがでしょうか。


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監修者
弁護士 阿部 栄一郎
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所 https://maru-soleil.jp
早稲田大学法学部、千葉大学大学院専門法務研究科(法科大学院)卒業。平成19年弁護士登録(東京弁護士会)、都内某法律事務所勤務を経て、平成22年に丸の内ソレイユ法律事務所入所。離婚や相続、交通事故など幅広い案件に対応し、依頼者の悩みや問題の解決に当たっている。不動産問題、交通事故問題について定期的にポータルサイトに執筆しているほか、EC企業向けのオンラインセミナーなどでも講師を務める。
ライター
小川 葉子(おがわ ようこ)
大学卒業後、IT 企業にて役員秘書として勤務したのち、翻訳会社に転職。営業サポートから翻訳コーディネートまでを担当。その後、結婚・出産を経て、ライターに転身。暮らしやお金に関するコラムを執筆。子育て中の親である視点を活かしながら、お金や住まいに関してわかりやすく発信しています。

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