Interview

フラワーアーティスト 前田有紀さん Vol.11

自分の「好き」を見つめて進む。人生って本当に面白いー

テレビ朝日のアナウンサーとしてご活躍後、フラワーアーティストへ転身した前田有紀さん。「好き」という気持ちを胸に未知の分野に飛び込み、厳しい修業を経てフラワーアーティストとして活躍の場を広げる前田さんに、そのパワーの源は何か、お話を伺いました。
プロフィール

前田有紀(フラワーアーティスト・元テレビ朝日アナウンサー)

10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで2年半の修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いからイベントやウェディングの装花、作品制作など、様々な空間での花の在り方を提案する。2017年秋に自身がプロデュースする「世界の花屋」(http://sekainohanaya.com/)をオープンさせる。

好奇心で一念発起。「こんな自分も悪くない」

――アナウンサーから一転、なぜフラワーアーティストになろうと思ったのでしょうか?

私は都会育ちなんですが、子供の頃から自然がすごく好きで、いつも自然に憧れている子供でした。夏休みに母の実家がある鳥取に行くと、山の中や田んぼのあぜ道などを走り抜けていました。就職してテレビ朝日のある六本木まで地下鉄で通勤していましたが、そんな生活の中でもやっぱり自然が恋しいという気持ちが強くあって「もしも花と緑に関わる仕事をしたら、どんな風に暮らしが変わるんだろう」という好奇心で転職しました。
 
――テレビ局を退職後はイギリスへ留学されていますが、アナウンサー時代の生活と比べていかがでしたか?

イギリスには半年くらい滞在し、自分の中で視点が変わる大きなきっかけになりました。前半はロンドンで語学学校に通いながらフラワースクールにも通い、“都会の中の自然の在り方”を知りたくて、ロンドンの街をいろいろと歩き回っていましたね。そして後半は、コッツウォルズという中世の面影が残るのどかな街に行って、ホームステイをしながらインターンとしてガーデナーの下働きをしていました。そこで待っていたのは、日本とはまるで違う生活!アナウンサーのときは、番組を終えて帰ると深夜3時頃だったり、逆に深夜3時頃に出社したりと、日によってバラバラの暮らしでした。それがイギリス(コッツウォルズ)では、毎朝6時に起きて、採れたて野菜のおいしい朝食を食べ、牧草地を通って羊をかき分けながら通勤するような状態。少し前までは地下鉄に乗って六本木まで通勤していたのに、こんなに生活が変わっちゃって「人生って本当に面白いなぁ」と思いながら仕事に向かっていました。
お庭の仕事も華やかに見えて実はかなりの重労働で、朝からすごく重たいホースを持って水まきをしたり、地面に這いつくばって雑草を抜いたり、トピアリー(※植物を刈り込んで立体的に形作る造形物)を作ったりと、すごく体を使う仕事なんです。色あせたシャツを着て、顔に泥を付けて、と本当にひどい姿でしたが、こんな自分も悪くないなって思ったんです。花や緑に触れていれば別にきれいな格好をしていなくても楽しい、すごく心が満たされるんだ、と新たな自分を再発見しました。

――帰国後は生花店で働かれたそうですが、新しい分野でのお仕事はいかがでしたか?

10年も社会人経験があるのに、こんなに世間知らずだったんだ…と鼻をへし折られた気分でした。これまでアナウンサーとしていろんな人に会いに行ったりして、なんでも知っている気でいたのに、請求書や領収書の出し方も知らなかった。レジで桁を間違えて打ってしまって、高いものを安く売ってしまったり…。それはそれは、怒られました(笑)。でもそうやって一つ一つ世の中の仕組みを知ることや、怒ってもらえること、そのすべてが楽しかったです。朝から夜遅くまで働いていましたが、大変さよりも楽しさが上回っているような修業期間でした。
 
――その後、フラワーアーティストとして独立されたんですね。一番印象に残っているお仕事は何でしょうか?

お店で働いていると、やはりお店のルールの中でお花を表現していくので、もっと自分で自由にやってみたいなという気持ちがありました。実際に独立し、今年の秋に「世界の花屋」を共同で立ち上げたことはとても大きな出来事でした。この「世界の花屋」というのは、世界中の農園の花を輸入している商社さんと一緒に作っているブランドなんですけど、PRのためにパーティーを開いたりイベントを企画したりと、作品を作るだけではなく企画や運営までやらせてもらっています。お客さんの反応もすごくダイレクトに伝わってくるので、とても面白いです。
 
――数あるお花の中からどういう基準でお花をセレクトされているのでしょうか?

私の中ではすごく明確な基準があって、「自分が手にしてワクワクするか」なんです。野生で育ったような草花が一番好きなんですけど、作品を作るときは、“都会の中で自然の息遣いが感じられるお花”をいつも目指しています。「世界の花屋」では手に取っていただいたお客さんの毎日が彩りに満ちたらいいなという願いを込めて、一つ一つアレンジをお作りしています。農家さんのことをお伝えして花をお届けすると、お客さんもその花をより大事そうに持ってくださるんです。それを見ると、伝えていくことの大切さをすごく感じます。

フラワーアーティストとして、母として。奮闘した1年間。

――昨年ご出産されたそうですが、お子さんとの生活はいかがですか?

初めての子育てに奮闘中です。「世界の花屋」の立ち上げとも重なっていたので、時には授乳したり離乳食をあげたりしながら打ち合わせをしていました。振り返ると結構メチャクチャなお母さんだなとも思うんですけど、幸い一緒にお仕事する方が子供に対して理解がある方ばかりで、温かく迎え入れてもらいました。皆さんに支えてもらいながら乗り越えた1年だったと思います。よく、育児と仕事の両立は大変ではないかと聞かれるんですが、お花の仕事が本当に大好きで、その中にもう一つ“息子”という別の大好きなものがやってきたという感じ。大好きなことが二つもできて、今はとても幸せな状況だと思っています。ただ、やはり時間には限りがあって、夕方になれば息子の食事や入浴、寝かしつけがあります。その分、夜に仕事をするようになったので、睡眠不足ではありますね。家もすぐ散らかったりして、イライラすることもあったんですけど、友人から「家族にとっては、完璧を目指してイライラするよりも、出来てなくても笑っているお母さんの方がいいよ」とアドバイスをもらいました。それから気が楽になって、夫に「ごめんね、今日、掃除してないよ」と満面の笑みで言ったりしています(笑)。

都会でも自然を楽しんで。アナウンサーの経験を生かして伝えたいこと

――もうすぐクリスマスですが、おすすめの花や飾り方を教えてください。

クリスマスのシーズンは断然、生花の針葉樹(モミ・ヒバ・スギ・ヒノキなど)の“枝もの”をおすすめします。香りがすごくよく、森林浴しているような気持ちになれるんです。年末年始は忙しいですけど、朝起きて針葉樹の香りをかぐだけで心が和らぎます。形態としては玄関や壁に簡単に飾れるようなリースがいいですね。あと初心者の方には花を束ねるだけで作れるスワッグ(※壁飾り)もおすすめですよ。

――今後の夢や目標がありましたら教えてください。

都会の忙しい毎日の中でも自然の息遣いが感じられるような暮らしをする人が増えたらいいなと思っているので、部屋に取り入れやすい花やグリーンのアイテムを提案していきたいです。最終的にはベランダで緑を育てる人が増えたり、部屋の一角に花が飾ってあったり、都会の街並みが今以上にもっと花と緑で溢れていればいいなぁと思います。日本ではまだまだ花の生産者の方の思いを伝えきれていないと感じています。アナウンサーをやってきた自分だからこそできることがきっとあると思うので、「世界の花屋」をはじめ、いろいろなプロジェクトを通して作り手の思いを届けていきたいです。自分の「好き」を見つめることは、自分の人生と向き合う意味ですごく大事だなと思うので、自分の「好き」をどんどん見つけてワクワクしながら暮らしを楽しんでください。

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