「こんなとき、どうする?」~知って得する不動産コラム~

【『LGBTQマイホーム講座』 企画担当者に聞く】
同性カップルの新築・中古マンション購入 よくある不安や疑問に回答! Vol.6

近年、LGBTQ(※1)の方が暮らしやすい社会作りが少しずつ進められている一方で、同性カップルが安心してマンションを購入するにはまだまだ課題が残されています。
 
日本では法律上同性婚は認められていないため、同性カップルのマンション購入にはさまざまな制限や不利益が生じます。
 
そもそもカミングアウト(周囲に自身のセクシュアリティを明かすこと)をせずに物件を購入する当事者が多いことから、事例や必要な情報が少なく、「何から始めたらよいのかわからない」というカップルも多いのではないでしょうか。
 
この記事では同性パートナーとマンションの購入を検討し始めた方に向けて、課題となりやすい問題のほか、住宅ローンの種類や必要な手続き、相続への備え方について紹介します。
 
さらに同性カップルが抱えやすいマンション購入のリアルなお悩みを紹介!「LIFULL HOME'S 住まいの窓口」で、同性カップル向け『パートナーと家を買うには?建てるには?LGBTQ マイホーム講座・個別相談』サービスを立ち上げた株式会社LIFULLの楢崎美香さんに同性カップルのマンション購入方法や留意点について伺いました。
 
※1 LGBTQは、L=レズビアン(女性の同性愛者)、G=ゲイ(男性の同性愛者)、B=バイセクシュアル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(身体の性別と心で自認する性別に違和感がある人)、Q=クエスチョニング(自分の性のあり方を探している状態にある人)の頭文字をとったもので、性的少数者(セクシャルマイノリティー)の総称の1つ。

同性カップルが直面する制度面の課題

日本ではLGBTQに対する法制度が整っていないため、同性カップルは日々の生活のなかでさまざまな不安や課題を抱えることになります。
 
制度面における具体的な課題を見ていきましょう。

・さまざまな「万が一」への不安

長く一緒に暮らしていても、万が一への不安は常につきまといます。病気や事故にあった場合も、医療機関によっては「法律上、家族でない」ことからパートナーの病状を知ることができなかったり、最期に立ち会えなかったりということが現実として起きています。
また、災害時の安否情報は、個人情報の保護を理由に家族以外への情報提供は制限されています。例えばお互いに離れた場所にいる時に大規模な地震が起こり、携帯電話がつながらなかった場合はパートナーの安否を知ることが非常に難しくなります。なかには災害時対応指針にLGBTQへの配慮を盛り込んでいる自治体もありますが、同居の親族と同様に同性パートナーの安否情報を得られる自治体は全国で13%(※2)と限られています。

・税制面での金銭的負担が大きい

日本における婚姻の成立は「異性同士」であることが前提となっているため、「配偶者」は異性のみとなります。そのため現行の婚姻制度では同性がパートナーである場合は所得税の配偶者控除をはじめ、相続税、贈与税など、夫婦であれば受けられるはずの優遇措置の対象外となり、金銭面の負担は大きくなります。

・住まいの選択肢が限られてしまう

同性カップルで賃貸物件を借りようとすると、多くの場合「ルームシェア」とみなされます。そのため、親族のみを条件とした「2人入居可」の物件は入居を断られてしまうケースがあるようです。「ルームシェア可」の物件は「2人入居可」の物件よりも数が圧倒的に少ないため、同性カップルが借りられる部屋は限定されてしまいます。
また、物件を購入する際も、親族と認められないことにより、選べる住宅ローンや物件への権利が限られてしまうのが実情です。
 
※2 災害時、性的少数者に「配慮」23% 避難所マニュアル記載 全国121自治体調査(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20200118/k00/00m/040/138000c

同性カップルによくある「マンション購入Q&A」

同性カップルがマンション購入を検討する場合、具体的にどんな不安や悩みを抱えるケースが多いのでしょうか?
 
ここでは、「LIFULL HOME'S 住まいの窓口」で『LGBTQマイホーム講座・個別相談』を立ち上げた楢崎美香さんに相談者の方々から寄せられるよくある相談内容についてお伺いしました。
 
楢崎さんいわく、相談に来られる方は「まず何から始めたらいいかわからない」という不安を抱えているケースが多いのだとか。その背景には、同性カップルでマンションを購入するための情報が不足していることや、カミングアウトしていない場合が多く、身近な人に相談できないという事情があります。
 
住宅ローンや相続問題など、よくある相談内容を楢崎さんにピックアップしてもらい、回答いただきました!

Q1. 同性カップルが住宅ローンを組む場合、どのようなパターンがありますか?

楢崎さん:

大きく分けて2つの方法があります。1つは1人の収入で住宅ローンを組む方法、もう1つが2人の収入を合算して組むパターンです。
 
以前はどちらかの名義でローンを組む「単身ローン」しか選択肢がありませんでしたが、2017年より、複数の金融機関で一定の要件を満たせば同性パートナーと2人で住宅ローンを組める商品(ペアローンや連帯債務型ローンなど)が登場しています。
 
収入を合算できるようになったことで、物件の選択肢が広がりました。団体信用生命保険(団信)にどちらも加入できたり、住宅ローン控除がそれぞれ受けられたりといったメリットもあります。
 
ただ、2人で住宅ローンを利用する際に悩ましいのが、多くの金融機関で「公正証書」等の提出が求められることです。この公正証書によって2人の関係性を証明することができますが、書類作成には10万円前後の費用がかかる点や、なじみのない契約文書へのハードルの高さを感じる方は多く、書類作成の手続きをサポートしてほしいという声も多くあります。

Q2. 2人で住宅ローンを借りる際に、どのような書類が必要ですか?

楢崎さん:

金融機関に提出する必要書類は大まかに2つのパターンがあります(金融機関により詳細要件は異なります)。
 
1. 「合意契約」に係る公正証書、「任意後見契約」に係る公正証書、「任意後見契約」に係る登記事項証明書の3点 
2. 地方自治体が発行するパートナーシップ証明書
 
1の公正証書は、本人が公正役場に出向いて公証人と相談しながら作成します。費用は公証役場での作成手数料等が数万円ほど、弁護士や司法書士などにサポートを依頼した場合は10〜20万円程度の報酬が別途必要になることが多いです。なお、登記事項証明書は法務局に申請することで取得できます。
 
2のなかでも、東京都渋谷区が発行するパートナーシップ証明書は、1の書類の内容を踏まえているので、金融機関では1の公正証書と同等に扱われることもあります。手続きは渋谷区役所の住民戸籍窓口で行います。ただし渋谷区に居住し、かつ住民登録があることが条件です。
渋谷区以外の自治体が発行するパートナーシップ証明書も、必要書類として指定している金融機関もあります。なお、最近ではパートナーシップ制度を導入する自治体が少しずつ増え、2021年6月時点で100以上もの自治体で導入されています。

Q3. 同性カップルでペアローンを組む場合、住宅ローンの審査は通りにくいですか?

楢崎さん:

Q1、2で触れた公正証書の書類を用意できれば、その他の審査は異性カップルと変わらないはずです。ただ、同性カップル向けの住宅ローンを扱う金融機関はまだまだ限られているため、市場全体で見ると異性カップルよりも2人で住宅ローンを借りるハードルは高いといえます。

Q4. 万が一パートナーシップを解消することを想定して備えておくべきことはありますか?

楢崎さん:

異性の夫婦と同じく、将来は何があるかわからないので、住宅購入を機に、単身ローンの場合であっても「合意契約」は2人で検討されてもいいかもしれません。法的な婚姻を結べない同性カップルがパートナーシップを解消する場合、財産分与を主張することが難しく、トラブルになる可能性があります。
 
「合意契約」は、アメリカでは一般的な結婚を控えたカップルが交わす婚前契約書に近いものです。2人の関係が婚姻関係に相当することや共同生活のルール、万が一の別れに備えてあらかじめ約束事を盛り込んでおくこともできます。

Q5. 不動産会社の担当者には2人の関係を伝えておいた方がいいですか?

楢崎さん:

2人で住宅ローンを組む場合は、必要書類の提出にあたって2人の関係性を伝えることになります。
単身ローンの場合は、必ずしも必要ではないですが、伝えることで担当者とのやりとりがスムーズになる可能性はあります。住宅購入にあたっては、「誰と住んで、どんな暮らしをしたいか」を担当者に話さずに進めるのは難しい側面もあるからです。パートナーとの関係性や正確な希望条件を伝えることで、最適な物件を提案してもらえることにもつながります。もちろんそれぞれ事情がありますので、カミングアウトを推奨するわけではありませんが、信頼できる不動産会社の担当者に出会えるかは、住宅購入の満足度に大きく関わってくるといえます。

Q6. どちらかが病気になったり、亡くなったりした時に備えてやっておくべきことを教えてください。

楢崎さん:

単身ローン、ペアローン、いずれの場合も「遺言」を作成しておくと万が一の時の備えになります。遺言があれば、法定相続人ではない同性パートナーでも住宅などの財産を相続することができます。
 
単身ローンで住宅を購入する場合、費用の一部をパートナーが負担していたとしても、物件の所有権はローンの名義人のみです。名義人が事故や脳卒中などで高次脳機能障害になったり、亡くなってしまったりした場合、団体信用生命保険に入っていれば返済は免除されます。しかし、残されたパートナーは法的に家族とは認められないため、財産を相続することができず、住む場所を失ってしまう恐れがあります。
 
また、ペアローンで物件を共有名義にした場合も、それぞれの持ち分については所有権が認められますが、パートナーの持ち分についての相続権はありません。
どちらかに万が一のことがあった場合、遺言があれば、「遺留分(親族などの法定相続人に保障された一定割合の相続財産)」以外は、パートナーへの相続を主張することができます。

Q7. 法的に関係を保護するために「養子縁組」を検討する同性カップルもいると聞きます。「養子縁組」のメリット・デメリットを教えてください。

楢崎さん:

養子縁組のメリットは、パートナーとの間に親子関係が成立するため、様々な法的な権利が認められることです。相続権もその1つで、万が一の際はパートナーのために自宅マンションをはじめ財産を残すことが可能です。そのほか住宅ローンの組み方として「親子ローン」を選択できるようになります。
 
デメリットとしては、今後同性婚が認められた場合に、養子縁組を組んでいることでパートナーとの結婚が認められない可能性があることです。また、法律上のメリットは理解しながらも、「パートナーとして生きたいのであって親子になりたいわけではない」という感情から、養子縁組を選ばないカップルも多くいるといわれています。

同性カップルのマイホーム購入エピソード

実際にマイホームを購入した2組の同性カップルに具体的な購入方法や購入時のエピソードを伺いました。

【プロフィール】
Iさん(30代)・Kさん(30代)
物件:中古マンション / 広さ:54㎡(2LDK) / 購入方法:ペアローン

ペアローンで中古マンションを購入したIさんとKさんの女性カップル。
 
もともと賃貸で同棲していたこともあり、マンションの購入を以前から検討していたものの、当初は同性婚が認められるまで待とうと考えていたそう。しかし、まだまだ時間がかかることを想定し、数年前マンション購入に踏み切ったといいます。
 
物件を探し始めたばかりの頃は、カップルであることを伝えず内見に行ったことがあったというIさん。しかし、担当者と会話が噛み合わずやりづらさを感じたことから、その後は2人の関係をオープンにすることで物件探しもスムーズになったといいます。
 
気になる物件選びは、ライフプランに応じて住み替えができるよう「資産価値を維持できそうな物件」を中心に検討。結果、現在の築7年の中古マンションに出会い、購入を決めたそう。
 
ペアローンでのマンション購入にあたり、万が一のことも想定してパートナーと話し合い、公正証書を作成したというIさんとKさん。
 
現在の日本では法律上2人の関係を保証するものがないからこそ、IさんとKさんにとってマンションとは、“2人で守るもの、そして2人をつなぐもの”という意味合いが込められているそうです。

【プロフィール】
Sさん(30代)・Tさん(30代)
物件:戸建て3階建て / 広さ:85㎡(3LDK) / 購入方法:単身ローン

10年以上の交際歴を持つ女性カップルのSさんとTさん。現在は3匹の猫とともに、こだわりの詰まった注文住宅で暮らしています。
 
住宅ローンは公正証書作成のハードルの高さから単身ローンを選択したそう。
 
2人は周囲にカミングアウトをしていないため、周りに気軽に相談できる人もおらず、必要な情報を得られない環境で、とにかく手探りで進めていくしかなかったといいます。さらに職場で家を建てることを詮索されたこともストレスだったと話します。
 
万が一の備えとしては、Sさんが単身ローンで組んでいることから、Tさんの持ち分がゼロになってしまうことを考えて、Sさんの生命保険の受取人はTさんにしているといいます。
 
親族とみなされないため、保険料を受け取るための相続税は異性の夫婦よりも高額になってしまいますが、最近は保険料の受け取りを同性のパートナーに指定できる保険会社も増えているそうです。

早めのご相談が吉!計画的な準備が功を奏す

法律の支えがない同性カップルは、マイホームの購入にあたって備えるべきことが多くあります。2人でローンを組む場合は、決済のタイミングに合わせて公正証書を準備する必要があるので、パートナーとしっかり話し合う時間も必要です。特に仲介物件の申し込みはスピード勝負の場合もありますので、余裕を持った購入計画が功を奏します。今後マンション購入を検討している同性カップルは、まずはご相談からでも始めてみることをおすすめします。

楢崎さんから最後に一言:

現在の日本では、同性カップルが住宅を購入するには、様々な不安や課題があります。いつかこの記事が必要のない社会になればと思いますが、まだ時間がかかりそうなので、「現在進行形の課題」にできる限り対処しながら、多くの人に理想のマイホームに出会っていただけたらと思います。

株式会社LIFULL 楢﨑 美香(ならさき みか)
 
二級建築士。早稲田大学卒業後、住宅建築業界を経て株式会社LIFULLへ。
「LIFE LIST」「LIFULL HOME'S PRESS」などの住宅不動産メディア運営に携わりながら、2021年に「LGBTQマイホーム講座・個別相談」サービスを企画。当事者の住まい探しの支援を行う。

ライター

小川 葉子(おがわ ようこ)
大学卒業後、IT 企業にて役員秘書として勤務したのち、翻訳会社に転職。営業サポートから翻訳コーディネートまでを担当。その後、結婚・出産を経て、ライターに転身。暮らしやお金に関するコラムを執筆。子育て中の親である視点を活かしながら、お金や住まいに関してわかりやすく発信しています。

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