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刺し子
庶民の知恵から生まれた幾何学模様 ―刺し子とは―
刺し子とは、貴重な布を無駄なく使うために布と布を継いで補強したもので、古くは飛鳥・奈良時代にルーツを持ちます。私たちがよく目にするものは、江戸時代中期に普及し始めたもので、虫除けになる藍染めの着物に白い木綿糸で刺したものが定番です。布を重ね合わせ、布目をひと針ひと針埋めることで、防寒にも役立ち、農作業時や冬の寒さから庶民の体を守っていました。
日本各地に刺し子は広まり、青森「こぎん刺し」、山形県「庄内刺し子」など地域独自の刺し子のほか、東京では江戸の火消し半纏(はんてん)や海苔養殖場の作業着に刺されていました。四国や九州地方でも、漁師や海女を海の魔物から守るよう祈りを込めて着物に刺したりと、当時の人々とは切り離せない、親しみのある存在でした。
また、昔は母親が娘の嫁入り道具にと、刺し子の花ふきんをたくさん作って持たせたそうです。大家族が当たり前の時代、嫁ぎ先のそれぞれのお膳を間違えたりしないように違う柄のふきんを膳に掛けて区別するという役目と、戻ることがなくとも実家を忘れぬように、との思いが込められていたとか。
遊び心からさまざまな美しい幾何学模様に発展させ、質素な生活の中でも精一杯おしゃれを楽しむ様子や、時間をかけて繕った刺し子からは妻から夫、母から子へと、かけがえのない家族への温かい愛情も伝わってきます。
現代では、その模様の美しさから、補強や防寒の目的から離れ、刺繍のひとつとして親しまれています。実用性の高いふきんだけでなく、小物やインテリアファブリックに刺すのも人気です。
伝統模様のご紹介
刺し子にはたくさんの伝統模様があります。ほんの一部ですが、ここでは、その中から代表的な3つの模様をご紹介します。
麻の葉
刺し子の代表的な模様の1つで、麻の葉の形をしており、邪をはらう意味のほかに、麻のようにまっすぐ成長するようにとの願いを込めて、赤ちゃんの肌着に刺されていました。
七宝つなぎ
呼び名に「宝」と付くとおり財宝を表すおめでたい模様で、古くから平和や円満、子孫繁栄を祈るものでした。
籠目(かごめ)
竹籠の網目のように見えることがこの名の由来です。また、模様が六芒星にも見えることから、こちらも魔除けの意味があるとされていました。
実際に刺してみましょう!
「お裁縫は苦手」「まっすぐに縫えない」「難しそう」という方も多いですが、まっすぐでなくてもそれがかえって個性となり味が出るものです。完成すると達成感と愛着を感じられると思いますので、まずは楽しんでみてください!初めての方には、材料がセットになっているキットから始めるのがおすすめ。刺したものは、コースターやブックカバー、髪留めなどの日用品に取り入れてみるのも素敵です。
準備
・布(針が刺しやすい生地)
・刺し子糸(かせ糸)
・針
・指ぬき
・はさみ
・ものさし※
・チャコペン※
※模様を自分で描く場合必要です
かせ糸の扱い方
1. ねじれている束を広げ、輪っか状にします。
2. 糸端同士が結ばれた箇所がありますので、そこにはさみを入れて切ります。
3. 切った糸束の真ん中辺りを軽く結びます。
4. 束ねた結び目付近から糸を一本ずつ引き抜いて使います。
ふきんのキットを刺す手順
今回は、あらかじめ布に柄がプリントされているキットを使用します。(洗うとプリントは消えます)
1. 布地を中表(柄のプリント面を内側にして合わせる)にして半分に折り、ほつれている辺のみを運針(※)で縫います。表の柄が真ん中に来るようバランスをチェックしてから縫いましょう。※縫い終わりまで一気に縫う技法。ひと針ひと針ごとに糸を引き抜きません。
2. 表に返し、重なっている布のズレを防ぐためにステッチをかけます。
3. 斜めのラインを刺していきます。
4. 同じ方向の斜めを刺し終わったら、交差するもう一方の斜めを刺します。
反対の斜めも同じ手順で刺します。
5. すべて刺し終わったら、洗濯もしくは霧吹きやスチームでアイロンがけをして完成です。
刺すときのポイント
始めと終わりは返し縫い
刺し始めと刺し終わりをそれぞれ3針ほど返し縫いすることで、摩擦の力が働き糸を抜けにくくします(裏地を付ける場合は玉結び・玉止めしても可)。
糸こき
糸がつれて布が波打たないよう、しっかり指でしごきましょう。
糸の継ぎ方
途中で糸が足りなくなったときは3針ほど重ね縫いをして糸を抜けにくくします。継ぎ目はなるべく模様の端で終わるよう逆算して刺すのが好ましいです。
美しく仕上げるコツ
運針で針を引き抜く回数をできる限り少なくしましょう。少なければ少ないほど針目が安定し、より直線的にそろいます。針を引き抜くときは指抜きに針のお尻を当てて押し、針を布から引き抜きます。
辺と辺が交差する所は空白を作り、糸が重ならないようにしましょう。
指抜き
良い例
悪い例
講師のご紹介
木内しおり
2009年刺し子に出会い、民芸のイメージにとらわれない現代の生活に溶け込む刺し子の小物作りを開始。2013年より「刺し子のアトリエ・GYPSOPHILA(ジプソフィラ)」の屋号の元、刺し子作家として活動を開始し、現在は主にネットショップで作品を販売中。
ネットショップ:http://gypsophila.theshop.jp/
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