自分らしく暮らす ワーク&ライフスタイル術

2020.11.01

自分らしく暮らす ワーク&ライフスタイル術
Vol5. 料理家 ワタナベマキさん

「仕事とプライベート、どちらも大切にしたいけれど、バランスが難しい」そんな悩みを持つ人が多いのではないでしょうか?このコラムでは、仕事にまい進するゲストの日々の過ごし方から、暮らしの中で大切にしていることを紐解いていきます。
 
今回のゲストは、料理家として雑誌や書籍、テレビなどで幅広く活躍する、ワタナベマキさん。グラフィックデザイナーを経て、28歳で料理家として独立した経緯や多くの人に愛されるレシピづくりについて、そして妻として、中学生の男の子を育てる母としての思いも語ってもらいました。
 
ワタナベ マキさんプロフィール
1976年生まれ。神奈川県出身。グラフィックデザイナーを経て、2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ料理家としての活動をスタート。ケータリングから始まり、雑誌や書籍、広告、テレビなど多方面で活躍の場を広げながら多数のレシピ本を出版。近著に「そうざい麺」(主婦と生活社)、「疲れないからだになる鉄分ごはん」(家の光協会)など。
 

【WORK】グラフィックデザイナーから料理家に転身

―広告代理店を経てグラフィックデザイナー、そして料理家へ転身という、少し変わったキャリアをお持ちですね。これまでのお仕事と転身のきっかけについて、教えてください

<就職~転職>憧れのグラフィックデザイナーに直談判し、デザインの道へ

大学生のときにインターンに参加した広告代理店で、企業の冊子づくりなどを体験し、デザインすることや技術を覚える楽しさを体感。卒業後はその広告代理店のデザイン部に就職しました。しかし、仕事終わりは毎日飲みに行くような生活が合わず、1年も経たずに退職しました。
「転職するなら、自分が好きなデザイナーのもとで働きたい」と考え、デザインの書籍などで作品を見て憧れていたグラフィックデザイナー、セキユリヲさんに直接メールを送ることに。ちょうどセキさんが忙しく、人手が足りない時期だったことも奏功し「明日から来て」と声をかけてもらい、セキさんが主宰する「Salvia(サルビア)」で働くことになりました。セキさんがアートディレクションを手がける美術雑誌「みづゑ」の撮影に立ち会ったり、セキさんが作った洋服のパターンを整理したり…。デザイナーとしてさまざまな仕事に携わり楽しい毎日でしたが、セキさんがクライアントに対し当たり前のようにおこなっている、デザインコンセプトや背景の説明がうまくできず、モヤモヤした気持ちを抱えるようになりました。
 
グラフィックデザイナーを経て料理家となったワタナベさん

<料理の道へ>師匠のひとことで、一番好きなことを仕事にしようと決意

元々、就職時には「料理かデザインの仕事をしたい」と考えていました。札幌に住む母方の祖母が自宅で近所の人を招いて梅干しやたくあんの漬け方などを教えていて、父の転勤で札幌にいた高校時代、祖母が料理を教える姿を間近で見ていました。また、そんな祖母のもとで育った母も、家で梅干しを漬けるなど教えを受け継ぐ料理好き。母や祖母を見て、料理を食べて育ったことも影響していたかもしれません。「小さな頃から身近だった料理なら、自分が込めた思いを説明できるのではないか」と気づきました。ただ、当時は一番好きなことを仕事にすることが怖いと感じていました。セキさんにそんな思いを打ち明けたところ「好きなことを仕事にしても嫌いにはならないし、もっと好きになれるかもしれないからやってみたら?」と背中を押され、決心がつきました。
サルビアは、衣食住を大切にしている会社ですが、当時は食部門がなかったため、サルビアの食部門を立ち上げることを提案されました。「仕事としてやるなら基礎をきちんと習得したほうがいい」と感じ、デザイナーを続けながら仕事帰りに週3回、調理師学校に通い準備を進めました。
 
ワタナベさんが「祖母から受け継いだ」というたくさんの料理カード。メインディッシュからデザートまで、さまざまなレシピが手書きで記されています。自身のレシピに活かすべく、STAYHOME期間中に整理をおこなったそうです

<二足の草鞋>グラフィックデザイナーの仕事とケータリング業を両立

まずは、事務所スタッフ約30人の弁当を500円で作ることから始めました。午前2時に事務所のキッチンに入っておかずを作り、昼までにみんなから預かった弁当箱に詰めて配達。片づけたあとは、デザイナーの仕事に戻る忙しい毎日でしたが、この弁当がきっかけとなり「ケータリング」の依頼が入るようになりました。2005年当時は「ケータリング」という概念が広まっていない時代でしたが、事務所に出入りするカメラマンや編集者などを通して徐々に浸透。個人に届けていたお弁当から始まり、会社や撮影隊のロケ弁など団体注文にシフトしていきました。野菜たっぷりの弁当がモデルやタレントさんを中心に話題になり、気付けば一度に30個ほどの弁当を作るようになっていました。


<独立>初の著書出版を経て、料理家として独り立ち

そんな折、ロケ弁を依頼されることが多かったMORE編集部の誘いで、雑誌『MORE』(集英社)のお弁当企画を担当。当時はめずらしかった曲げわっぱに詰めたお弁当が評判になり、たくさんの編集者の目にも触れることとなりました。それがきっかけで初の著書『サルビア給食室だより』(ブルームブックス)を出版。その後も次々と出版の依頼が舞い込むようになりました。
それからしばらくして、サルビアを運営しているデザイン事務所「ea(エア)」を会社化するタイミングで独立を決意。料理家として本格的に歩み出しました。
 
これまでに、約70冊の本を出版しているワタナベさん。なかでも印象に残っている1冊が、約2年の時間をかけて製作したという『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)。「撮り忘れた写真があって、カメラマンにシチリアまで再撮影に行ってもらったことも。たくさんの人の力で形になりました」とワタナベさん


<レシピづくり>ケータリングで培った経験が料理界のトレンドとマッチ

―これまでに数え切れないほどたくさんのレシピを発表していますが、多くの人に支持されている秘訣はどこにあると思いますか?
 
ケータリング時代、始発で事務所に行き配達用の弁当を作りながら、家族用の食事も準備をするのは大変でした。自然と、毎日の食事もお弁当も、時間があるときにストックおかずを作っておき、時短調理を心がけるようになりました。出産・育児で忙しい時期を乗り切れたのは、ストックおかずを作る習慣が身についていたからだと思っています。そして、ストックおかずを作る習慣が本づくりに生きるとともに、昨今の料理界のトレンドキーワード「つくりおき」をいち早く実践することに繋がりました。限られた時間で手軽に作れるレシピに、多くの人が共感してくれたのだと思います。


―確かに、ワタナベさんのレシピは短時間で手軽においしく作れるものが多いように感じます。おすすめレシピがあれば、是非教えてください。

母がよく梅干しと一緒にごはんを炊いていて、梅干しの炊き込みごはんは私にとっても定番レシピです。れんこんも一緒に炊けば、梅干しの酸味とれんこんの食感が絶妙で、お弁当にも最適な炊き込みごはんになります。

梅干しとれんこんの炊き込みごはん

材料
・米 2合分
・梅干し 2個
・れんこん 250g(大きめの1節くらい)
・昆布 5cm角
・酒 大さじ2
・水 380cc
・白ごま 適量
 
1.炊飯器か土鍋に梅干しと皮を剥き2cm角に切ったれんこんをのせる
 
2.酒と水を加える
3.炊飯器で炊く。土鍋の場合は強火にかけ、煮立ったら弱火にして7分で火を止める
 
4.蓋に穴が開いた土鍋の場合弱火にしたタイミングで太めの菜箸を穴に刺して塞ぐと圧力がかかりふっくら仕上がる
 
5.10分ほど蒸らし梅干しの種を取り除きよく混ぜる
 
6.茶碗によそい白ごまを振ってできあがり
 
仕事道具Check
1.ボウル:新潟県燕市のブランド「conte(コンテ)」のボウルは、縁巻き(カールした縁)がないため水分や粉などが溜まらず衛生的。安定感があり、深さもあって使いやすいです。
2.塩壺:大きな壺にはゲランドの塩を、小さな壺には沖縄の塩を入れ、洋食と和食で使い分けています。
3.フライパン:ドイツ「Turk(ターク)」の鉄製フライパンがあれば、肉も卵もおいしく焼けます。小さなサイズは主に朝食づくりに重宝しています。
4.まな板:直径25cm程度の丸いヒバ製のフライパンは物産展で購入。切ったものをササッと鍋やフライパンに入れるのにちょうどよいサイズで使いやすいです。
5.盛り付け箸:料理家にとって欠かせない、先が細い箸です。お弁当を詰めるときにも欠かせません。
6.包丁:亀有にある「吉實(よしさね)」の包丁を愛用。重さがあるため、力を入れなくてもスッと切れます。
 
毎年初夏に、梅仕事をします。今年は赤紫蘇入りとシンプルなタイプを合わせて8kgほど漬けました。自分たちが食べる用と、レシピの試作用を兼ねています。赤紫蘇入りはそのまま、シンプルなタイプを料理用に使うことが多いですね。
酢とナンプラー、マスタードシードを混ぜれば、自家製マスタードのできあがり。サラダやマリネ、肉料理などさまざまなメニューに活用しています。
【LIFE】状況に応じてリノベーションし、自分らしく暮らす

―ワタナベさんにとって、家族とはどんな存在ですか?

私にとって、夫や息子は「同志」でしょうか。子育てに奮闘したり、息子の中学受験を控えヤキモキしたり、さまざまなライフイベントを家族で乗り越えてきました。それとは別に、夫と息子の仲が良く、男同士でよくつるんでいます。ゲームなどの話は私には理解できず、2人の世界ですね(笑)。
息子には、小学校高学年くらいから料理やごみ捨てなど、一通りの家事を覚えてもらいました。現在は中学2年生ですが、文句を言いながらも朝ごはんを作ってくれます。将来独り立ちできるように育てているつもりですし、自立した大人になってほしいです。


―現在の住まいについて聞かせてください

以前は夫の実家近くにある賃貸マンションで暮らしていましたが、息子が3歳のとき、今後の子育てを考えてマイホームの購入を決めました。近隣の中古マンションを探していたのですが、なかなか良い物件と巡り合えず、エリアを広げて新築マンションも視野に入れることに。購入した今のマンションは、例えばスイッチひとつとっても余計な装飾がないタイプで統一されているなど、とてもシンプルなつくりが気に入りました。新築のため、リノベーションはせずにそのまま住み始めましたが、ただし入居前に、コンロは火力が強いタイプに入れ替え。コンロの下部には火力が強いガスオーブンを入れています。
息子が小学校に入学するタイミングでリノベーションをおこないました。和室をLDKとひと続きの洋室にし、キッチンの天板をステンレスに。食器や調理用具の収納計画も見直しました。
その後、息子が中学生になり、常に見守っている必要がなくなったため、元々は対面スタイルだったキッチンを壁に向かって作業に集中できるレイアウトに変更しました。キッチンのレイアウト変更と同時に、アイランド型の作業台を造作。ライフステージに合わせて手を入れながら住み続けています。
 
元は和室だったスペース。現在はダイニングと一続きのリラックス空間として活用しています。
玄関ホールからLDKまで、床は無垢材をヘリンボーン張りで統一。床材は夫婦の意見が揃い、すんなりと決まりました。
ダイニングの背面に設けたカウンター収納の中は、すべて食器です。食材が映える白を中心に揃えています。
ベランダに並ぶたくさんのグリーンは、仲良しの花屋さんに勧めてもらったものばかり。梅干しを干すのもベランダです。
ドイツのSieMatic(ジーマティック)製というキッチン。2回目のリフォームのときに、同じくドイツのMiele(ミーレ)の食洗機を導入。大容量で洗浄力が高く、片づけがラクになったそうです
セキさんの夫である家具デザイナー、清水徹さんによる「monokraft」に依頼し、引き出しの扉面はオークの突板、天板はベルギーの左官材「モールテックス」で仕上げた作業台。引き出しには取っ手がありませんが、扉面を押すと開き、ゆっくりと閉まるスライドレールを採用しています。
大容量で機能がシンプルな、アメリカ製の業務用冷蔵庫を愛用。以前愛用していたGE(ゼネラル・エレクトリック)製の冷蔵後は日本から撤退してしまったため、今は同じくアメリカのkenmore(ケンモア )製に買い替えたのだとか。こちらも使いやすく、冷蔵庫内の7割を撮影用の食材が占めているそうです
【WORK–LIFE BALANCE】料理は仕事で、趣味で、生活の一部

―料理家として独立した年に結婚。その翌年に息子さんが誕生したそうですが、子育てをしながら料理家としての仕事を続けるにあたり、苦労が多かったのではないでしょうか?

今住んでいるマンションに引っ越す前も後も、保育園に入ることができなかったため、撮影で得たお金をつぎ込んでベビーシッターを呼んだり、それぞれの母に預けたり、息子が小さいうちの子育ては大変でした。ただ、息子の小学校入学まで、グラフィックデザイナーの夫が家を事務所にしていたため、仕事が入ったときに息子のことを見てもらうことができてありがたかったですね。
 
息子が4歳くらいのとき、CM撮影の仕事が入り、息子を母に預けて挑みましたが、夜中までかかる撮影が3日続きました。そのときは、息子に寂しい思いをさせたと感じただけでなく、「一番大切な子どもに会えず、私は何をしているのだろう」という気持ちになり、私自身のモチベーションも下がってしまって…。それ以来「できる範囲の仕事を無理せずにやりたい」と思うようになり、拘束時間的に厳しい仕事は受けないようになりました。


―レシピの試作や取材など、仕事の多くを自宅でおこなっているワタナベさんですが、どのように家庭と仕事を両立していますか?

好きなことを仕事にしているため、食事を作ることは仕事であり、趣味であり、生活に欠かせないことでもあります。フリーランスで活動しているため、何をするにも自己責任というプレッシャーはありますが、会社勤めだったころのようにONとOFFを明確に分ける必要性は感じていませんね。
STAYHOME期間中は息子さんもよく立っていたというキッチン

―新型コロナウイルスの感染拡大により外出を自粛し、自宅で過ごす日々が続いたと思います。コロナ前と後で、家族との向き合い方や仕事に対する考え方に変化はありましたか?

3月のはじめから5月まで、息子が通う中学校が休校となり、親子で食事を作る機会が各段に増えました。息子は雑誌の「男子ごはん」特集を参考に、フライドポテトや唐揚げ、チョコレートケーキなど、さまざまなレシピに挑戦していましたね。
 
もともと家で仕事をしている私にとって、コロナ禍でも仕事のスタイルが大きく変わることはありません。ただし、世の中の考えが変わり、家でごはんを作るということに対して興味を持つ人が増えたと感じています。これまでは毎日を忙しく過ごす中で、料理は「パパッと」「簡単に」作りたいという人が多かったように思いますが、家にいる時間が長くなり、最近は「じっくりと」料理を作りたい人が増えたのではないでしょうか。時間がなかった人も「今年は梅仕事をやってみよう」と、手仕事にチャレンジした人も多いと思います。時間をかけて丁寧に取り組むレシピにも興味を持ってもらえるので、レシピの紹介し甲斐があります。
 
私にとって、仕事にはさまざまなことが含まれています。料理家になる前から好きだった料理食べることは仕事に直結していますし、お酒も毎日何かしら飲んでいます。白ワインを飲むことが多いですが、最近はビール関連の仕事をしていたため、ビールもよく飲んでいました。また、新型コロナウイルスの感染拡大前は、仕事でもプライベートでも旅行に行くことが多く、今秋はシチリアに行く予定でした。料理関係の友人と足を運ぶことが多いのは、台湾やラオス。ラオスの料理はハーブたっぷりでやさしい味わいのものが多く、日本人の味覚に合うためおすすめです。家族旅行はハワイに行くことが多く、友人がいるモロカイ島とオアフ島を巡るコースが定番です。完全なプライベートと呼べるのは、家族と過ごす時間くらいです。
【End roll】ワタナベマキさんのマイスタイルとは?

ハワイのことわざに「No rain, no rainbow」という言葉があり、「雨が降らなければ虹は出ない。試練があっても次はいいことがある」といった意味があるそうです。例えば「スーパーのレジで会計が777円だった」といった小さな喜びを大切に、日々を「前向き」に生きることをモットーとしていると話す、ワタナベさん。人生は山あり谷ありですが、嫌なことがあっても前を向き、仕事が上手くいかなかったとしても切り替えて前に進むことを心がけているそうです。ポジティブシンキングが、子育てをしながらたくさんのレシピ本を出版する原動力となり、多くの人に支持される魅力となっているのかもしれませんね。

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