自分らしく暮らす ワーク&ライフスタイル術

自分らしく暮らす ワーク&ライフスタイル術
元バレーボール日本代表 木村沙織さん Vol.9

「仕事とプライベート、どちらも大切にしたいけれど、バランスが難しい」そんな悩みを持つ人が多いのではないでしょうか?このコラムでは、仕事にまい進するゲストの日々の過ごし方から、暮らしの中で大切にしていることを紐解いていきます。
今回のゲストは元バレーボール日本代表の木村沙織さん。17歳で全日本入りし、4連続で五輪に出場。世界最高峰のトルコリーグへ入団など輝かしい軌跡を辿るとともに、現役引退後の仕事や結婚生活についても語ってもらいました。

木村沙織さんプロフィール
1986年生まれ。東京都出身。17歳で全日本代表に初招集され、アジア選手権で代表デビュー。アテネ、北京に続き、2012年のロンドン五輪では28年ぶりの銅メダル獲得に貢献した。同年にはトルコリーグに移籍し、欧州チャンピオンズリーグで優勝。リオデジャネイロ五輪では全日本チームのキャプテンを務めた。2017年に現役を引退後は、メディア出演やカフェの経営などマルチに活躍をしている。

【WORK】4度の五輪出場やトルコへ移籍など世界で活躍

<小学生時代>お菓子目当てで始めたバレーボール。いつしか達成感に魅せられるように
 
―バレーボールを始めたきっかけについて教えて下さい

母が所属するママさんバレーチームで一緒に練習をしたり、ボール拾いを手伝ったりしたことが始まりです。でも目的は、練習後に貰えるお菓子でしたけどね。母の友だちに私と同い年の子どもがいて「バレーボールを習っているのだけれど、沙織ちゃんも来てみれば?」と誘われて、地元クラブへ通うようになりました。
 
当時は習字や英会話、エレクトーン、通信教育講座など様々な習い事をしていましたが、長く続けたのはバレーボールだけ。「サーブが入るようになった」「パスが続くようになった」と目に見えた達成感があって楽しく、やりがいを感じました。他校から集まる同年代の仲間ができたことも大きかったです。
 
 

<中学・高校時代>バレーボールの強豪校に入学。日本一を目指す喜び
 
―成徳学園中学校(当時)に進学した経緯を教えて下さい

小学校6年生の時に都大会で優勝したのですが、成徳学園中学校バレーボール部の監督が、地元の体育館まで見に来てくれました。「スーツを着た人が何をしに来たの?」と不思議に思っていたのですが、後にクラブチームの先生から、スカウトしてもらったことを聞きました。当時は地元の中学校へ進学する予定で、バレーボールの強豪校に行くことは考えていなかったのですが、そこで進路が決まりました。

全国中学選抜優勝将来有望選手賞受賞時の木村沙織さん

―決断するにあたり、迷いはなかったのでしょうか?

成徳学園の学校見学に行ったところ、当時の制服がセーラー服でとてもかわいくて(笑)。でも一番の決め手は、「バレーボールで日本一を目指している学校の一員になりませんか?」という誘いにワクワクしたことです。この学校に入れば全国大会を目指せる、自分が何かに打ち込めるチャンスを貰った、そう思えて迷いは一切ありませんでした。

―中学校生活はいかがでしたか?

私たちの学年は生徒数が少なく、学年全体で1クラス、10人しかいませんでした。うち8人がバレーボール部員で、授業も部活も一緒なので兄弟のような感覚。生徒も先生も距離が近かったです。
また中高一貫校だったので、高校生と一緒に練習できたこと大きかったです。ボールの大きさも、ネットの高さも違いますし、高校生はパワーもあります。何から何まで新鮮で、合同練習が楽しかったのを覚えています。
 

中学3年生で、全日本中学校バレーボール選手権大会全国大会を優勝

―成徳学園高校(現・下北沢成徳高等学校)進学後は?

高校2年で全日本女子バレーボールチーム(現在のバレーボール女子日本代表)に選出されましたが「すごいところにきちゃったな」という気持ちでした。練習内容やトレーニングはキツかったものの、今までテレビで観ていた人たちと練習できることが嬉しかったです。

―2004年のアテネ五輪最終予選で2大会ぶりの五輪出場に貢献し「スーパー女子高生」として一躍その名を広めましたね

その頃は、ワールドカップや五輪がどれだけ大切なのか、代表争いがどれだけ熾烈なのか理解しきれず、能天気にバレーボールを楽しんでいました。アテネ五輪の本戦は腰痛が酷くほとんど出場できませんでしたが、ラッキーな体験をたくさんさせてもらいました。

<実業団に入団> Vリーグや国際大会、トルコでも活躍後、日本代表のキャプテンに

―高校卒業後、東レアローズに入団した経緯を教えて下さい

大学に行くか、実業団に行くか、他に興味があった洋服や美容などの道に進むか進路を考えました。母からも「バレーボールがすべてじゃない」と言われていましたが、悩んだ末に実業団入りを決意しました。
実は東レアローズが希望する先ではなかったのですが、チームスタッフの担当者の誘いが本当にしつこくて(笑)。何度お断わりしても、毎日体育館やトレーニングジムに来て下さり、その熱意が本当にすごくて最終的には負けました。入団してからも、いつも親身になって対応して下さり、本当に感謝しています。トルコ(後述)に行くときも、快く送り出してくれたので安心できました。

―ロンドン五輪後、トルコリーグのワクフバンク・テュルクテレコムへ移籍した経緯を教えて下さい

海外のリーグに移籍するなんて想像していませんでした。でも、東レアローズでのプレミアリーグ優勝やロンドン五輪でのメダル獲得など目標が一気に達成され「その先の目標を見据えるなら、違う扉を開けなければならない」と感じていました。そんなタイミングで海外から声がかかり「挑戦してみよう」と決めました。

ワクフバンク・テュルクテレコムに移籍し、欧州チャンピオンズリーグを制覇

―実際に行ってみて、何を感じましたか?

全日本のメンバーと初めて練習した高校時代を思い出すような、刺激的な毎日でした。世界中のエースアタッカーと練習ができる環境で、いつも楽しかったです。
日常生活も驚きの連続でした。日本では一人暮らしでも食事は食堂でとることが多く、自分で3食、栄養面を考えながら食事を用意するのは初めての経験でした。トルコは一般的に食材を少量で買えないため、遠征中に食材を腐らせてしまったり、日本と逆の右側通行なので、体育館までの車移動の際、逆走しそうになったりと大変でしたが、そうした失敗も含めて楽しかったです。
 

トルコリーグ2年目は「ガラタサライ・ダイキン」に移籍

―その後、一度は引退を考えていたそうですね

親にも、仲がいい荒木絵里香さんにも引退の意向を伝え、トルコに試合を見に来た眞鍋さん(当時、女子日本代表バレーボールチームの監督だった眞鍋政義氏)にも「この1年で引退する」と伝えました。しかし「次の日本代表のキャプテンをお願いしたい」と返され、頭の中が「?」でいっぱいに(笑)。繰り返し説得されるうちに「バレーボール人生で、まだキャプテンは経験していない。実現したらどんなチームになるのだろう」と想像するようになりました。最終的には「チャレンジせずに終わるのは自分らしくない」と、挑戦を決めました。

―キャプテンとしてチームをまとめてみて、いかがでしたか?

私は元々、コミュニケーションを取りに行ったり、チームに喝を入れたりしないタイプ。自分が前に立つのは難しかったです。どうすれば全員がプレーしやすくなるかを考えるあまり、自分のパフォーマンスも上がらなくなってしまったことも。「何で引き受けちゃったんだろう」と悩みましたが、スタッフの皆さんや先輩方の支えで乗り切り、多くの経験ができました。

<引退>悔いなくアスリート生活を終え、カフェのオープンなど第二の人生へ

―2017年3月に現役を引退されたときの心境を教えて下さい

「やりきった!」「楽しかった!」という心境です。プロのアスリートとして試合に出て、結果を出さなければいけないのに、負けても「悔しい」と燃える気持ちがだんだん薄れてきたと感じ、引退を決めました。

滋賀県大津市の東レアリーナで引退を報告した木村沙織さん

―2019年10月、ご夫婦でカフェ「SUNNY」をオープンしました。カフェを開くことが夢だったそうですが、オープンの経緯を教えて下さい
 
現役時代に応援してもらったファンのみなさんに感謝を伝えるため、キッチンカーを開業し、Vリーグの会場を回りたいと思っていました。キッチンカーを開業するには、仕込みができる厨房が必要だと知ったことが、カフェを始めた理由です。いつかはキッチンカーも開業し、街の人と近い距離で触れあいたいですね。
 

2019年秋、夫婦で大阪にカフェ「SUNNY」をオープン

―カフェの経営の他、幅広く活動されていますが、これからどのように活動したいですか?
 
いま、カフェ以外にも、ペットブランドのプロデュースや素材にこだわったパンケーキの粉の共同開発などに挑戦しています。欲しかったものが形になった瞬間は楽しいし、自分が作った商品を使っている人を見るのも嬉しいです。その他、テレビ出演やバレーの解説など幅広く活動させてもらっています。
 
アスリートはいつか引退し、その後の生活を考えなければなりません。一度きりの人生なので、あらゆることに挑戦したいです。
 
仕事道具Check

1.化粧ポーチ:メイク直しはあまりしませんが、いざというときのために、リップを2~3本とアイライナー、チークなどを常備。洋服に合わせて中身を入れ替えています。
 
2.イヤホン:大阪から東京へ仕事に行くことが多いので移動のおともに。家で寝つけず音楽を聴くときにも重宝します。首にぶら下げていることも多いです。
 
3.手帳:パソコンが苦手で、スケジュール管理はもっぱら手帳で。手書きでメモをして管理するアナログ人間です。
 
4.ハンドクリーム:「Aesop(イソップ)」のインテンシブ ハイドレーティング ボディバームをハンドクリームとして愛用しています。バニラやサンダルウッドなどの甘い香りが好きで、乾燥対策というよりも、TV出演で緊張したときに香りでリラックスできるよう、お守り代わりに持ち歩いています。
 
5.美容液ミスト:「chant a charm (チャントアチャーム)」のリフレッシュエッセンスミストは、乾燥しているとき、顔にシュッとひと吹きします。マスクの内側にかけて保湿することも。ルームミスト感覚でも使用するため、常にバッグに忍ばせています。
 
6.スマートフォン:Instagramの更新や調べものをするとき、文章を書くときにも欠かせません。写真を撮ることが好きなので、画質がいい商品が出ると機種変更したくなります。また、フィルムカメラのザラッとした質感も好きで、合わせて持ち歩くこともあります。
 
7.ミネラルウォーター:天然アルカリイオン水の「温泉水99」を定期購入し、5年以上飲み続けています。おいしくて飲みやすく、どこに行くにも持ち歩いています。
 

【LIFE】夫は「一番の友だちで、一番の味方」

―元バレーボール選手である夫・日高裕次郎さんとの出会いは?

同い年で、向こうも中学・高校とバレーボールで活躍していたので認識はしていたものの、あまり喋ったことはありませんでした。再会したのは20代後半のとき、先輩から誘われた鍋パーティでした。そこから連絡を取るようになり、付き合い始めて3年くらいで結婚しました。

―夫婦円満の秘訣はありますか?

結婚してすぐの頃や、トルコに遊びに来てくれた時はよく大喧嘩をしました。今まで付き合った人とは喧嘩をしたことがなかったのに、喧嘩ばかりしている自分に驚くとともに「素を出せる人だ」と感じました。
最近は喧嘩をすることも減りました。夫の存在は「一番の友だち」という感覚が近く「一番の味方」でもあります。外で話せないことでも夫には話せて、気持ちを解消できます。
 

―現在の住まいについて教えて下さい。

3LDKの新築マンションを購入し、リフォームで壁をぶち抜いて2LDKに。リビングにはたくさんの本や雑誌をしまうため、壁一面の本棚を作りました。合わせてキッチンの高さを10cm高くしています。本当はもっと高くしたかったのですが、185cmある私の身長に合わせると売却時に困りそうなので控えました。
お気に入りの場所はリビングです。ソファで動画配信を見たり、愛犬たちが日向ぼっこをしているのを眺めるひとときが幸せです。

「日当たりの良い場所を求め、3匹でちょっとずつ移動している姿がかわいい」と木村さん

―休日はどのように過ごしていますか?

犬の散歩がてら、近くのコーヒー屋さんでのんびりする時間が好きです。あとは、まだチャレンジしていませんが陶芸にも興味があります。「自分の作った器でコーヒーを」という目標のため、陶芸スポットを探しているところです。

【WORK-LIFEBALANCE】ONもOFFも夫婦がともに過ごす日々

―カフェを営業するにあたり、夫婦の役割は?

オープン当初はBARの要素が強く、私が接客担当で、夫がキッチン担当でお酒やおつまみ、食事を作っていました。コロナ禍で酒類の提供が難しくなってからは、夫がコーヒーなどを淹れて接客や会計も担当。私は主に焼き菓子をつくるなどバックヤードを担当しています。
夫とは遊びに行くのも仕事も一緒ですが、毎日が楽しいです。
 

―メニュー開発などは家で行っているのでしょうか。ONとOFFをどのように切り替えていますか?

現役時代はユニフォームを着るとON、脱ぐとOFFと気持ちが明確に切り替わっていましたが、今は仕事とプライベートで頭を切り替えることはあまりないですね。ただ、化粧をすると「今日も頑張ろう」という気持ちになり、スイッチが入ります。

―カフェを通して提供したいものは何ですか?

お客様同士の出会いの場を提供したいです。「ここに来たら誰かに会える」と感じて、足を運んでもらえたら嬉しいですね。

現役時代の頭の中は、ほぼバレーボール一色。食事も睡眠もバレーボールのためですし、家族と友だちのことを少し考える以外、バレーボールのことばかり考えていました。
引退した今、仕事=趣味の延長という感覚です。洋服のデザインやペットのグッズを考えたり、焼き菓子を作ったり、どれも一生懸命ですが、好きなことを仕事にできています。家族や、結婚する直前から飼い始めたも、仕事や趣味と密接した関係にあり切り離せません。
美容は主にお風呂タイムです。現役時代は一番のリラックスタイムでしたが、今は逆に、頭の中を整理し、仕事のアイデアを考える時間となっています。入浴は毎日朝も夜も欠かさず、睡眠より優先している時間です。
YouTubeは、夫が好きでよく視聴していたことから、夫婦で配信を始めました。最近は私がひとりで配信する機会も増えています。皆さんと繋がるための場所として、息抜きも兼ねて気軽に動画をアップしています。
その他は何にも考えず、ぼぉっととしている時間です。
 

【End roll】木村沙織さんのマイスタイルとは?

「苦しい時期はあったのかもしれないけれども、苦しいと思ったことはない」と語る木村さん。「大丈夫!! 笑っていれば何とかなる!!!」という言葉は、何事も明るく楽しくポジティブに乗り切ってきた木村さんらしく、インタビューを通してこれまでの日々を振り返るなかでも「楽しい」という言葉が何度も飛び出しました。難しい局面でも前向きに挑戦し、取り組む姿は、私たちも見習いたいですね。

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