自分らしく暮らす ワーク&ライフスタイル術

2020.07.01

自分らしく暮らす ワーク&ライフスタイル術
Vol3. ブックデザイナー 佐藤亜沙美さん

「仕事とプライベート、どちらも大切にしたいけれど、バランスが難しい」そんな悩みを持つ人が多いのではないでしょうか?このコラムでは、仕事に邁進するゲストの日々の過ごし方から、暮らしの中で大切にしていることを紐解いていきます。
今回のゲストは、話題の書籍などのデザインを多数手がける、ブックデザイナーの佐藤亜沙美さん。「ブックデザイナー」という仕事に興味を持ったきっかけから、夫である芥川賞作家・滝口悠生さんとの暮らしまで伺いました。
佐藤亜沙美さんプロフィール
1982年生まれ。福島県出身。2006年~2014年まで、日本を代表するブックデザイナーである祖父江慎(そぶえ しん)氏のデザイン事務所「コズフィッシュ」に在籍後、独立。「サトウサンカイ」を設立し、「静かに、ねぇ、静かに(講談社)」「生理ちゃん(KADOKAWA)」など数多くのブックデザインを手がけている。2019年からは季刊文芸誌「文藝」のアートディレクター&デザイナーを務める。
 

【WORK】「ブックデザイナー」を目指して。仕事に捧げた20代

―「本の世界」に足を踏み入れたきっかけ、ブックデザイナーとしてのターニングポイントを教えてください

<就職>祖父江慎さんのブックデザインに惹かれ、人生の転機に

デザインの専門学校に入学しましたが、授業と実際の仕事がどのようにリンクするのかピンとこなくて中退。19歳から製版も行っている広告企画制作会社で働き始めたものの、精神的にも肉体的にもつらい毎日を送っていました。悩んでいるとき、毎日本屋に行き、片っ端から本を読みました。生き方のヒントを求めて本屋に通ううちに「ブックデザインという仕事があるんだ」と知り、出版社のインハウスデザイナーとして働き始めました。
 
さまざまな本を見てデザインを研究した中で際立っていたのが、祖父江慎(そぶえしん)さんのブックデザインでした。本は硬派な媒体ですが、常識にとらわれず柔軟な発想でデザインされていて、「こうあるべき」という風潮に対する「抗い」があり「この人のもとで働きたい」と強く感じました
 
「ブックデザイナー」ってどんな仕事?
佐藤さんによると、「ブックデザイナー」と「装丁家(そうていか)」は同義語。ノンブル(ページ番号)や本文の書体、行数を何行にするのか、1行の文字数を何文字にするのか、行間を広げるか詰めるか、どういう紙を使うか、イラストレーターや写真家は誰にするかなど決めていきます。売価とコストの計算も大切な仕事。外まわりのデザインだけをされる方、本文デザインもされる方、スタイルは様々ですが、コズフィッシュではすべてをデザインしていたため、佐藤さんもそのスタイルを踏襲しているそうです。
<修業>猛アプローチの末、弟子入り。理想と現実の間で

「祖父江慎さんに名前と顔を覚えてもらい、一緒に仕事がしたい」という思いから、講演会などに何度も足を運び、猛アプローチ。製作した本を見てもらいました。売り込みを続けていたある日、「土日でも良ければ、今作っている作品集の手伝いにきたら」と声をかけていただきました。平日はこれまで通り出版社の仕事を、土日は祖父江さんのお手伝いをする生活を続けていた23歳のときに、晴れてデザイン事務所「コズフィッシュ」に在籍できることになりました。
 
気合いだけで「コズフィッシュ」に入社しましたが、自分が思い描いていた理想的な自分と自分の技術力のなさゆえの乖離にかなり悩みました。ただ、そんな姿をみて自分を応援してくれる人も少しずつ増えていきました。



<独立>苦悩しながらも「らしさ」を見失わず、自分のスタイルを確立

コズフィッシュ入社6年目くらいから個人の仕事依頼が入るようになり、祖父江さんに「一人でやってみたら?」と勧められ、31歳のときに独立を決めました。結婚したのもこのタイミングです。
 
それまでは、いかに自分のデザインを成立させるかに必死だったのですが、独立後、立場が180度変わり、特色のあるデザインを考えるだけでなく、読者や編集者の立場に立ってデザインすることへの切り替えが大変でした。コズフィッシュではいかに贅沢な環境に身を置いていたのかと痛感しました。
 
でも、真摯に仕事に取り組んでいれば誰かが見ていてくれるもの。自分の名前が入った本が出版社の編集者の目に留まるようになり、仕事の依頼が増え始めました。35歳前後で自分が目標にしてきた作品のデザインをいくつか担当することができ、やっと自分の方向性が定まった気がします。現在はアップデートを続けている段階です。
 
佐藤さんが2014年に独立した際、立ち上げた事務所「サトウサンカイ」。2019年秋には神保町から神泉エリアへ移転


―これまで数多くのブックデザインを手掛けていますが、特に印象深い本について聞かせてください

転機となった一冊

畑中三応子『ファッションフード、あります。』/筑摩書房
プレゼンから印刷所の立ち合いまで、ブックデザイナーが行う一連の作業を担当しました。食べ物の本であることを意識し、カバーはクレープの巻紙を、表紙はエンボス加工で凹凸を、グロスニスで光沢を出してアイスクリームのコーンの質感を再現。炭のインクを少量入れることで焼目も表現しました。目次は純喫茶のメニューに見立てています。
 
アイデアを実現するため、印刷所の現場の人とディスカッションを重ねたこのときの経験をもとに「どんな提案が無謀で、何が実現可能なのか」を判断し、版元である出版社にフィードバックできるようになりましたし、知識や技術がビジュアルとして表出させられた実感がありました。普段から本に関わっている編集者からも、「書籍でもこんな加工や印刷ができるのですね! 書店で目立っていました」というような反響をたくさんもらいました。

印象に残っている本

菅俊一『観察の練習』/NUMABOOKS(右上)
「タイトルは見やすくあるべき」「サイズが小さい本は書店で売りにくい」といった、出版業界で常識とされていることが本当に正しいのか疑問を抱き、タイトルが見えにくい本を提案しました。パッと見てもタイトルが分からず、サイズもひと回り小さいですが、6刷まで部数が伸び、もちろん作品そのもの素晴らしさが前提ですが、常識が必ずしも正しいとは限らないことを実感できました。
 
ジェーン・スー『これでもいいのだ』/中央公論新社(右下)
当初、出版社にはもう少しカジュアルな仕様を求められていましたが、著者のジェーン・スーさんは知名度が高く、読者層も厚いですし、ご本人の「部屋においておきたい本にしたい」という要望もあり、紙質や加工にこだわったデザインをプレゼンしました。ザラリとした質感の紙や全面箔押し加工がSNS上でも評判となった1冊です。
 
内沼晋太郎『これからの本屋読本』/NHK出版(左下)
小さな本屋を始めたい人に向けた本で、左右の角を切り落とすことで、本を本屋(家)の形にしました。全国の書店員にノンブル(ページ番号)を手書きで書いてもらい、組み合わせて書体化したことも特徴です。「出版不況と言われているけれど、みんなで本屋を継続していこう」という思いを込めました。
仕事道具Check
1.紙厚測定器:束幅(つかはば=背幅)を決めるのに欠かせないアイテム。1枚の紙厚を測り、そのミリ数×ページ数で計算します。
2.プレゼンシート(ラフ):前は紙に手描きで作成していましたが、現在はiPadでラフを起こしています。作品の世界観を共有し、方向性を提案するためのたたき台です。
3.ノート:打ち合わせ時に見聞きした内容やアイデアは、ノートにすかさずメモをします。
4.紙見本:紙を選定する際に参考にする見本帳
そのほか、定規カッターも、仕事をする上で欠かせないアイテムです。
 
 
版元に必ず提出するプランシート。紙の素材や加工が記されているもので、こちらをもとに見積もりを行い、予算内に収まっているかを確認します。
好きな香りの中で仕事がしたくて、事務所で愛用しているのが「Air Aroma」のアロマディフューザー。エッセンシャルオイルは同社のBye Fly (バイフライ)がお気に入りです。考えごとが煮詰まり、思考が停止したときには「Aesop」のボディスプレー14を使い、気分を変えています。

【LIFE】「夫は家族であり親友」。専業主夫になりたかった夫との毎日

佐藤さんが夫である作家・滝口悠生さんと暮らしている都内の一軒家


夫の才能に惹かれて結婚。朝型な夫と夜型な妻の、夫婦のひととき

―芥川賞作家である夫、滝口悠生さんと出会ったきっかけは? 

夫とは、彼が小説を載せて配布していたフリーペーパーを知り合いからもらったことがきっかけで知り合いました。「こんな文章は読んだことがない!」と感動してファンになり、その気持ちを伝えに行ったんです。彼のサインをもらった第一号です。
 
はじめの数年間は、年に1回会う程度の仲でした。5年ほど経ったある日、突然「佐藤亜沙美さんと結婚したいと思っています」という手紙をもらって…。少し面食らいましたが、同時に「おもしろい人だな」とも感じ、恋愛感情がないまま付き合い始めることに。同じ時間を過ごしてみると、誰とも違う価値観の持ち主だと感じました。
 
夫は専業主夫になるのが夢で、私はずっと働き続けたかったため、それぞれの考えが一致。「私が食べさせられるようになろう!」という気持ちで同棲を始めましたが、当時の夫は遊園地のアルバイトしかしておらず、財力はゼロ。今思うと綱渡りな決断の数々にヒヤヒヤしますね(笑)。
 
現在、家事全般を夫が担当しています。夫のいいところは「夫ならこうすべき」「男ならこうあるべき」という社会通念的な常識を信じていないところ。「どちらが何をする」という固定概念がないため、私の仕事が大変だった時期に抵抗なく、家事全般を引き受けてくれました。現在は、私も仕事一辺倒ではなく、自宅での時間を増やして家事もするようになりました。
私は夜型で夫は朝型と生活時間帯が異なるため、朝が夫婦の時間です。2人でジョギングをして、スクワットをして朝食という流れ。前日のうちに何を食べたいかリクエストをすると、夫がそれに応える形で朝食を作ってくれます。私が夕食をとらないため、朝はしっかりと食べます。食事をしながら最近読んだ本や映画、お芝居の話題で盛り上がることが多いです。
 
―ご主人はどんな存在ですか?

一番近くにいる親友であり、夫でもあるという関係です。遊びに行くのも飲みに行くのも夫と一緒です。本屋に行ったり、映画やお芝居を観賞したり、夫が埼玉西武ライオンズファンのため野球観戦に行ったり…。草野球の応援に行くこともあります。

「好きなものに囲まれて暮らす」ことへのこだわり

―二人が暮らす住まいについても聞かせてください

住まいは、私が掃除をしやすい近代的な家を希望している一方で、夫は古い建物が好き。引っ越しの時は意見が合わず揉めましたが、家が仕事場でもある夫の意見を尊重し、リノベーション済みの一軒家の借家に決めました。
はじめは不満もありましたが、建物にだんだん愛着を感じ、隣に住む大家さんとも仲良くなり、今では居心地のいい場所です。戸建てなので庭があるところや、目の前にある小学校から聞こえる子どもの声に元気をもらえるところもいいですね。
 
私は、見るものに影響されやすいタイプのため、好きなものに囲まれて暮らすことを大切にしています。お気に入りは、夫が若いとき、白木のマトリョーシカに私をモデルにペインティングをして作ってくれた「アサミーシカ」。夫の仕事場に入れた壁一面の本棚は、事務所でも愛用している「margherita(マルゲリータ)」のものです。キッチンは夫の領域のため、夫の使いやすい家電や調理器具を揃えています。
 
―マイホーム願望はありますか?

現在の住まいも気に入っていますが、もし家を建てるとしたら、家族が増えるかもしれないので、その人数と役割に合わせて設計したいです。子どものことも考えなかったわけではないですが、フリーランスであり、女性ということもあり、30代前半まではキャリアを積むのに精一杯でした。夫とも相談しながら、ゆっくり今後について考えていきたいです。
 

【WORK-LIFEBALANCE】「モノづくり系夫婦」の向き合い方とは?

夫である芥川賞作家・滝口悠生さんとの関係

―佐藤さんは「夫の作品がつまらなくなったら離婚」と明言しているそうですね

私たち夫婦は、相手が作っているものに対するリスペクトが心の支えになっていると思います。お互いにモノづくりに対して怠けたら、関係性が変わってしまうのではないかという緊張感は常にあります。仕事がうまくいかなくなったら破綻するという単純な話ではないですが、お互いが何を大切に思っているかが一致していることが重要なのだと思います。
 
 
―夫婦で一緒に仕事をすることに関しては、どのように考えていますか?
 
夫は純文学作家で、身の回りに起きたことからインスピレーションを得て執筆しています。一緒に生活をしている私は客観的な視点で作品を捉えることが難しいため、夫の作品のデザインを担当することはないだろうなと思っていました。夫がアイオワ大学に滞在した経験を綴った『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』(NUMABOOKS)は自分がまったく介在しない時間を執筆した作品だったこともあり、初めて依頼を引き受けることができました。出版社から声を掛けていただいたときはとても嬉しかったです。
 
この本に関連して、一連の作業を初めて一緒に行い、楽しさも大変さも味わえました。トークイベントなどに一緒に参加できたのも貴重な時間になりました。
生活の中心は仕事。約12時間近く作業をしています。ライブ・映画・演劇もよく行きます。読書は常に5冊前後ストックし、そのときの気分に合う本を読んでいます。今は、メンタルの維持の意味もあり、割とハードなパーソナルトレーニングを受けています。英会話も週に2時間ほど、マンツーマンのオンラインレッスンを受けています。夫と会話をしたり、出かけたりする時間ももちろんですが、私にとっては一人でいる時間もとても大切です。

【End roll】佐藤亜沙美さんのマイスタイルとは?

「突き抜けろ!」の言葉通り、パワフルな人生を送り続けている佐藤さん。突き抜け続けるためにはエネルギーが必要ですが「20代の頃と比べて体力がなくなり、野心も少しずつ減退している中、エネルギーをどうやって維持するかが今後の課題」だと言います。将来は海外でも働けるように、英語の勉強や読書、映画や演劇鑑賞など仕事以外の時間もインプットを続けながらも、夫婦の時間を大切にする姿を「見習いたい」と感じるとともに、パワーを分けてもらったような気がしました。
【読者プレゼント】
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