Interview

演出家 村松裕子さん Vol.7

親は待つこと、信じること、焦らないこと。子供たちはちゃんと成長していくんです。

創る、歌う、踊る、演じる。
ミュージカルのすべてを子供たちが担う「リトル・ミュージカル」

子供たちの自主性を育み、感受性を豊かに伸ばすこの活動には、
大人が子供を見守り、一緒に成長していくための、たくさんのヒントがありました。
プロフィール

村松 裕子(むらまつ ひろこ)

演出家。明治大学文学部フランス文学専攻卒業後、ワルシャワ大学(ポーランド)、University of New York in Prague(チェコ)にて心理学を学ぶ。外資化粧品会社人事部を経て、オペラ演出、演出助手の活動を開始。ヴェルディ「マクベス」「ルイーザ・ミラー」等演出。演出助手としては、モーツァルト「フィガロの結婚」(新日本フィルハーモニー)、「ジャンニスキッキ」(新国立劇場オペラ研修所)等と並行し、子供たちとの表現活動を開始。台本のない創作舞台に取り組む。日本劇作家協会戯曲セミナー修了。

子供たちの「表現したい」という情熱が、ストーリーを作ります

――演出家として活動されていく中で、子供を対象にした舞台を始められたきっかけとは何だったのですか?

村松:もともとは大人を対象に演出家として活動していましたが、子供を中心にした舞台作りに興味を持つようになったのは、ある舞台がきっかけでした。子供たちに楽しんでもらうオペラを公演したとき、大人と子供とでは笑いどころが違うんだな、と気付いたんです。「子供だから」といって甘く見てはいけないし、むしろ、大人とはまったく異なる感性を持っていることに興味を持って、「それじゃあ、子供の見ている世界って、一体どんなものなんだろう」と考え始めるようになったのです。そこから、子供を中心にした舞台制作を手掛けるようになりました。
 
――子供たちの感性を伸ばすために、どんな工夫をされていますか?

村松:常に、“子供たちに響いているか”を敏感に察知するよう心掛けています。「今、全身で集中しているだろうか?」「心や頭が休まず動いているだろうか?」。目の動きや表情、息の荒さなどに一生懸命目を凝らして、子供たちの様子を観察することが大事だと思っています。例えば、引っ込み思案で自分の意見を思うように言えない子が最初の一言を発する前には、息が次第に荒くなり、姿勢も前のめりになってきます。そういうときでも、こちらから最初の一言を促すのではなく、自発的に言葉が出てくるのを待つ。そうすると、やがて堅い殻を突き破るようにして、“子供の言葉”が生まれてくるんです。

成長を見守り、待ってあげることの大切さを知りました

――リトル・ミュージカル代表の石垣さんと出会い、一緒に活動を始められた理由はなんですか?

村松:私が演出した舞台を石垣さんが見にいらっしゃったのが、出会いのきっかけ。お話をするうち、石垣さんの立ち上げた「リトル・ミュージカル」のコンセプトに共感したんです。今、世の中には子供を対象にしたミュージカル劇団がたくさんありますが、そのほとんどが商業ベース。もちろん、それらの団体にもそれぞれの意義や目的がありますが、リトル・ミュージカルは「誰もが参加できるように」と、設立当初から非営利団体として、寄付や助成を得ながら活動しています。何より日々の活動では、「感じること」や「考えること」「動くこと」を大事にしていて、それぞれの子供たちの個性を生かした舞台作りを第一に考えています。私は常に、演技のテクニックが優れているかどうかより、「見る人に伝えたい」「表現したい」という“パッション”が大事だと考えているのですが、リトル・ミュージカルには、日ごろの活動を通して子供たちがそういうパッションを感じられる機会がたくさんある。そんなところに、とても共感したんです。
 
――「リトル・ミュージカル」は、どのような思いから生まれたのですか?

石垣:私自身、小学生の時から高校1年生まで地元の合唱団に参加して、年1回、大きな舞台に立たせてもらっていたんです。たくさんの人が一堂に集まり、素敵な音楽を作り上げるという経験は、今振り返ってもとても大きくて、人生の基盤を作っているなと感じます。その一方、当時の私はどこか引っ込み思案なところもあって、「せっかくそういう活動に参加していたのだから、もっと自分の言いたいことを素直に表現できればよかったな」という反省もありました。その経験から、「子供たちが自分の感性に素直に従って、好きなものをとことん追求できるような場を作りたい」と思い、この活動を始めました。

――子供たちを主役にした劇団はたくさんありますが、「リトル・ミュージカル」ならでは、というところはどこですか?

石垣:まず歌ったり、演じたり、ストーリーを作ったり、といったことをすべて子供たちが考えて行っているということ。ここでは台本がありません。例えば、「無人島へ探検に行くとしたら、何を持って行く?」など、こちらが投げかけたテーマを基にみんなで会話をしながら、ストーリーを膨らませていくんです。
 
村松:通常は、始めに台本を読み込んでセリフを覚えてから演じます。確かにそうしたやり方は、子供たちの演技力を伸ばしたり、表現力を磨いたりすることに役立つかもしれません。しかし私たちのやり方では、台本がないからこそ自分たちの発想力でストーリーを無限大に膨らませ、表現する楽しみが得られるんです。そこには演技の上手、下手はありません。「伝えたい!表現したい!」という情熱が心の中に湧き起こり、そうした思いをありのままに表現することが大切。それが子供たちの豊かな感性を育んでいくんです。

――どんな子供たちが参加しているのですか。また、参加した子供たちに何か変化を感じることはありますか?

石垣:現在は小学生が活動の中心ですが、参加のきっかけはさまざまです。公演を見て興味が湧いた子や、友達が参加していて自分もやってみたいと思った子、お母さんに勧められて参加した子もいます。でも、必ず「自分がやりたい」と決めて参加することが条件です。ただ、どんな決意を持ってきても、最初はなかなか自分の意見を言い出せないものです。
 
村松:子供たちの変化はいろいろな面に現れます。人の目を見て話せなかった子が次第に堂々と話せるようになったり、言いたいことがあってもいつも我慢していた子がハキハキと意見を言えるようになったり。間近にそういう子供の成長に触れられることが、この活動の楽しさですね。
 
石垣:リトル・ミュージカルで大切にしているのは、「こういうことを言ったら、大人は喜ぶ」といった優等生的な発言ではなくて、真のパッションから生まれる言葉。友達が自由に意見を発表している様子を見て、自分もつられて発言していたということもありますし、言葉が出てくるタイミングは人それぞれです。そのタイミングを信じて待ってあげることが大事なんだと、この活動を通してつくづく思います。
 
――親御さんが子供の成長に驚いたり、喜んだりすることも多いのでしょうね。

石垣:もちろんそれもありますが、お母さんお父さんご自身の意識が変わるということも少なくないんです。これまでは子供が動き出す前に、ついアドバイスしてしまっていたお母さんやお父さんも、子供たちが行動するのをきちんと待ってあげられるようになり、「こうやって子供を見守ってあげればいいんだな」と安心していただけるようになってきたな、と感じます。
 
村松:親御さんたちも、みんな不安なんですよね。ほかの家の子供と比較して、うちの子供はおとなしいとか、行動力がないとか、成長が遅いとか。でも子供は自分のスピードで成長し、進化し続けています。親や、身近にいる私たち大人がそれを信じて見守ってあげることが、子供にとってとても大事なことなんだと思います。

石垣 清香(いしがき さやか)

リトル・ミュージカル代表理事。名古屋大学卒業後、広告制作会社などを経て2009年コンテンツ企画制作会社設立。一方、ライフワークとしてヨガなどのボディワークを研究し、身体表現技法を学ぶ。また、シナリオ・センターにてシナリオ制作の基礎を習得。2013年、非営利市民活動として、子供たちが作品を“創って演じる”創作ミュージカル劇団「リトル・ミュージカル」を旗揚げし、オリジナルミュージカルの制作指揮を執る。2015年一般社団法人化。

日本を飛び出し、やがて世界へ。活動を広げたいですね

――これから、どのように活動を展開していきたいとお考えですか。

村松:こういう活動を広く継続していくために、行政や地域と協働することも視野に入れたいですね。北欧やアメリカ、フィリピンなどでは子供たちが主体となった活動がとてもメジャーで、珍しいことではありません。そうした国々に倣って、子供たちの成長をサポートする活動を広く展開していければと思っています。
 
石垣:海外の子供たちとの共同創作は具体的に来年度検討しています。自分を表現したいと思う子供たちに出会うため、拠点を増やしていきたいと思っています。活動の幅も拡大し、美術やデザイン、シナリオライティング、楽器の演奏など、さまざまなジャンルに子供たちと一緒に挑戦していきたいですね。実際、ミュージカルを通して音楽の楽しさに目覚めた子供たちが多く、彼らの声に応えて、近々「リトル・オーケストラ」を立ち上げる予定です。子供たちの興味や関心はとても幅が広くて、スピーディー。私たち大人の方が急かされるくらいです(笑) 子供たちが伸び伸びと情熱を表現できるよう、私たちもしっかり後押ししてあげたい。そして、そういう情熱を秘めた子供たちがやがて大人になったら世の中が、ますます面白くなるんじゃないかなって思います。
公演情報

リトル・ミュージカル

2016年12月23日(金:祝)
こどもサンタのMerry Xmas SHOW@東急プラザ表参道原宿6F おもはらの森(16:00~)
クリスマスライブ@代々木八幡区民会館(17:30~)
2016年12月25日(日)
こどもサンタがハッピーロードをいく!(15:00~予定)
クリスマスライブ@仲町地域センター第1和室(16:00~)
2017年2月4日(土)5日(日)11日(土)12日(日)
リトル・ミュージカル三重四日市ワークショップ&ミニ発表会
2017年4月
大田リトル・ミュージカル/リトル・オーケストラ東京発足
2017年6月
板橋チーム公演@板橋区立文化会館小ホール
2017年8月19日(土)
渋谷チーム公演(5周年記念公演)@渋谷区文化総合センター大和田4F さくらホール
2018年3月
リトル・ミュージカル 国際共同創作 シンガポールワークショップ

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