おすすめ書籍のご紹介

おすすめ書籍のご紹介 Vol.4

秋の夜長に読みたいミステリー

満願

弁護士の藤井のもとに、ある日、一本の電話が入る。それは、彼が過去に弁護を担当した鵜川妙子の出所を伝えるものだった。妙子は、藤井が学生時代にお世話になった下宿先の夫人で、夫の借金の取り立てに訪れた男・矢場英司を刺殺した罪で懲役8年の実刑判決を受けていた。出所の連絡を受けた藤井は、改めて事件を振り返るなかで事件の真相に近づいていくが…。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件を描いたミステリーの至芸。

書籍情報
タイトル:満願
著者:米澤穂信
出版社:新潮社
価格:¥1,600+税

ピックアップコラム

新世代ミステリーの旗手として、いくつものヒット作を世に発表してきた米澤穂信さん。『満願』は最高傑作と評されることが多く、第27回山本周五郎賞を受賞したほか、直木賞にノミネートしました。さらに、「このミステリーがすごい!2015」を筆頭に、ミステリー小説の賞レースで三冠を達成するなど、数々のお墨付きをもらっています。

本書は独立した6編からなる短編集ということもあり、一つ一つの作品が読みやすいボリュームなのがポイント。初めてミステリー小説を読むという方の“入門作”としてもおすすめです。表題作の「満願」は、弁護士の主人公がかつて司法試験を受けるときにお世話になった、下宿先の“おかみさん”が起こした殺人事件を物語の軸にしています。何気ない描写やセリフの一つ一つが物語をひも解く鍵となっており、それに気付いたときには、事件の真相まであと一歩というところまで近付いている――そんなミステリー小説の心地よさを体感できる作品です。

ほかのエピソードでは、女性を守るために殉職してしまった警察官や、女性関係にルーズな父親を持つ美人姉妹、資源開発のために命がけの交渉を行うビジネスマンなどが登場。それぞれが抱える心の闇からは、生きることの悲しさを感じられます。それは同時に、読む人にとって何が人生を豊かにするのかを考えさせてくれる内容にもなっているのです。

空飛ぶ馬

大学で文学を学ぶ“私”は、いつも受けている講義が休講となり、時間を持て余していたところ、近世文学の教授である加茂先生と出会う。加茂先生を通じ、落語家の春桜亭円紫と出会った私は、彼とともに加茂先生が幼少時代にみたという不思議な夢の話を聞く。それは、当時まったく認識していなかった古田織部が切腹して死んでしまう夢だったという…。加茂先生はなぜそんな夢を見たのか? 女子大生と名探偵・円紫師匠の名コンビがここに始まる。爽快な論理展開の心温まるストーリー。

書籍情報
タイトル:空飛ぶ馬
著者:北村薫
装画:高野文子
装幀:小倉敏夫
出版社:東京創元社
価格:¥680+税

ピックアップコラム

高校で国語教師として働いていた当時、素性を隠した覆面作家としてデビューした北村薫さんの処女作が「空飛ぶ馬」。1989年発表の作品ではありますが、日常ミステリーというジャンルを開拓した作品として、長く読み継がれている名作です。

日常ミステリーは、日常生活のなかにあるささいな謎を解き明かしていくというもの。「空飛ぶ馬」は、ミステリー小説と聞いて多くの人が思い浮かべるであろう“殺人事件”が起こらないのが特徴です。本作では“紅茶に砂糖を何杯も入れ続ける女性たち”、“登山を終えて駐車場に戻ると、車のシートカバーだけがなくなっている”、“日曜日の夜9時になると、女の子が赤い服を着て立っている”など、女子大生の“私”が日常で見つけた気になる謎に対して、落語家の“円紫さん”が名探偵顔負けの推理をしていきます。

落語家らしい軽妙でテンポのいいやりとりは心地よく、ページをめくる手が止まりません。謎を解明するにあたって、円紫さんは状況からさまざまな推理を行います。理路整然かつ徐々に真相へと近付いていくのですが、事実がわかったときは「なるほど」と思わず唸ってしまうはず。『空飛ぶ馬』では、粒ぞろいの5つのミステリー短編が収録されており、本作は「円紫さんと私シリーズ」として複数の続編が刊行されているので、興味を持った人はあわせて読んでみてはいかがでしょうか。

百舌の叫ぶ夜

ある日、東京・新宿で爆弾テロ事件が発生する。爆弾を所持していた男のほか、2人の女性が爆発に巻き込まれて亡くなってしまった。そのうちの一人は警視庁公安部に所属する倉木尚武警部の妻であった。一方、特別任務により新谷和彦という男を尾行していた警視庁公安部の明星美希巡査部長も、この爆弾テロ事件に遭遇していた。その後、能登半島の孤狼岬(ころうざき)で記憶喪失の男が発見される。妹と名乗る女性が現れたことで、記憶喪失の男は美希が追っていた新谷和彦であることが確認されるが…。


書籍情報

タイトル:百舌の叫ぶ夜
著書:逢坂 剛
出版社:集英社文庫
価格:¥720+税

ピックアップコラム

「百舌の叫ぶ夜」は、昨年、西島秀俊さん主演でドラマ化された「MOZU」の原作です。作者の逢坂剛さんは、百舌(もず)シリーズ以外にも数々の人気シリーズで知られるベテラン作家。本作では、400ページ超のボリュームで重厚なストーリーを楽しませてくれます。主な登場人物は、能登半島の孤狼岬で発見された記憶喪失の男・新谷和彦。そして、とある理由から新谷を尾行していた刑事・明星美希。新宿で起きた爆発事件で妻を亡くした、公安特務一課の倉木武尚らです。

作中ではいくつもの章に話が分かれており、各登場人物のエピソードがつづられています。読み進めていくうちに、一部の時系列が前後していることに気が付くはずですが、散りばめられたエピソードの断片が物語の重要な伏線になっていたり、読者にあえてミスリードを誘っていたりと、読み応えのある物語の構成になっています。ぱらぱら読むというよりも、登場人物の名前や人物同士の関係をしっかり把握しながら読み進めていくのがおすすめ。人物関係や物語の流れをメモしていきながら、作中で登場する刑事さながら核心に迫っていくのも一つの楽しみ方です。

2015年11月7日に劇場版の公開を控えている「MOZU」。映画の公開に合わせて、百舌シリーズの文庫本が新装版になって登場しているので、続きが気になる方はぜひチェックしてみてください。

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