Interview

Vol.5 写真家 前田徳彦さん

夜空を見上げて感じる、おおらかな星の世界
会社員であり写真家でもある前田徳彦さんは、星空と風景を融合させた”星景写真”の第一人者。
休日を利用して、30年にわたりファインダー越しの”星空のある風景”を見つめ続けています。
それほどまでに前田さんを虜にさせる星空の魅力とはなにか。
満点の星が輝く「プラネタリウムバー」(港区白金台)で、前田さんの素顔に迫りました。
プロフィール
前田徳彦(まえだ のりひこ)

中学生のころから天文を趣味とし、高校、大学では星を中心とした天体写真に取り組む。1996年にホームページ「星空散歩」を開設。2007年ごろから星空のある風景をテーマとした“星景写真”の撮影に集中し、ホームページやブログ上で公開中。4つのアプリと写真集「星空風景」を発表し、2011年にはアプリ「星空時景」が石川県デザイン展にて金沢広告会会長賞を受賞。
星空のある風景写真BLOG~眠りたくない夜がある~
http://starwalker.jugem.jp/

知れば知るほど、星はもっと楽しくなる

――星に興味を持たれたきっかけはどんなことでしたか?
 
中学2年生のとき、星好きな友人の「流れ星は1日に何個も見ることができる」という一言をきっかけに、1カ月で図書館の天文書をすべて読みきるくらい星に夢中になりました。流れ星なんて一生に一度、見られるか見られないかの代物だと思い込んでいた僕にとって、友人の言葉はすごく衝撃的だったんです。
 
その年の冬には、お小遣いを貯めて買った望遠鏡で天体観測にも挑戦しました。それまで星座は無理やり星と星とを結んだこじつけだと思っていたのですが、星座図を頼りに星をたどっていくうち、「なるほど。よくつなげたものだな」って感心するほどうまく作られていることに気付いたんです。そうしたらもっと興味が湧いてきて、一つ、また一つと星座を覚えるたびに、いっそう楽しくなっていきました。
――知っていることが増えていくと、星空の魅力をより感じられるんですね。

見上げるだけでもきれいですが、星座や惑星の名前、季節ごとの位置などを覚えると、星空の楽しみ方が変わってきますよ。たとえば天の川。あそこだけ星が川のように密集しているのは、我々のいる銀河系が薄い円盤状をしているため、その内側に存在する地球からは星が重なって光の帯のように見えるからなんです。地球の属する太陽系が銀河系の中心からずれていることで、もっとも濃く見える射手座の方向が、銀河の中心なんですよ。
 
天の川といえば七夕のイメージが強いですが、実際は一年中、見ることができて、濃さや輝きなど季節ごとに異なる魅力を放っています。夏に標高の高いところから見ると、透明度の高い星空に濃い天の川が映えて、とても美しいんです。場所によって見え方が違うのも魅力のひとつですね。日本で見る天の川の一番濃い部分は地平線近くにあるのであまり条件がよくないのですが、南半球だと真上にドカーンっと広がっていて、とってもダイナミックです。

星空は日常を忘れさせるおおらかな世界

――星と景色を1枚の写真に収めようと思ったのはどうしてですか?

以前から星空と風景を合わせた写真を撮ってみたいと思ってはいたのですが、カメラの性能的に難しかったんですね。それで星空だけの写真を撮り続けていたのですが、どちらかというと感性より機材や撮影場所の要素が大きいことが自分には合わなくて、あまり撮影に積極的ではなくなっていました。
そんなときデジタルカメラが出始めて、これなら地上も写せるなって、星景写真を撮りはじめました。

――撮影のときに苦労されていることは、どんなことですか?

撮影は一晩中、寝ずに撮り続けるし、場所によってはクマなどの野生動物に襲われる危険もあります。冬は空気が澄んで星が綺麗なのですが、マイナス20度近くなることもあるので、結構、命懸けなんです。その日に行くスポットは、リストアップしている撮影場所と天気図とを照らし合わせて決めるのですが、行ってみたら街灯があって撮影できないとか、急に天気が崩れたとかアクシデントに見舞われることもあります。それでも、直感を信じれば何かしら打開策が見出せるし、最高の1枚が撮れたときは感動もひとしおです。
――そんな厳しい状況でも撮り続けたいと思える星空や星景写真の魅力はどんなところですか?

日常のことってどんどん変化していくじゃないですか。でも、星や星座はまったく変わらず輝き続けています。そんな、おおらかな世界を見上げていると原点に戻れるというか、仕事のトラブルとか環境の変化とか、日常で起こるさまざまなことが、大したことないんだなって感じられるようになりました。東京などの都市では星が見えないと思われがちですが、意外とたくさん見えるので、ぜひ夜空を眺めてみてください。空気を汚さない技術や光が上に漏れない工夫が進んで、僕が中学生のころよりも空がきれいになっていると思います。他国の都市と比べても、これだけの人口があるのに星が見えるのは、世界に誇れることだと思いますよ。
 
撮影に関しては、みんなと同じ場所でいかにオリジナリティを出せるかとか、まだ誰も撮っていない穴場を探す楽しみがありますね。今は、SNSでたくさんの人に作品を見ていただけるし、反応を感じられてやりがいもあります。東日本大震災のときには被災者の方から「写真に励まされています」というメッセージをいただき、僕の写真が人の役に立っていることがわかって嬉しかったです。

楽しむことで成果は上がり、信じる気持ちが夢を叶える

――平日は仕事、休日は徹夜での撮影と、休む間もなく大変そうですね。

好きなことなので大変と感じたことはありません。星景写真を通じて世界に広がりが持てて、かえってモチベーションに繋がっています。テレビや雑誌から問い合わせがきたり、写真集やアプリを出せるなんて、普通の日常では考えられない奇跡じゃないですか! 今こうして、お話させていただいていることも(笑)。ホームページやブログで作品を公開したことがきっかけなので、これもひとえに、インターネットの力。30年ほど前じゃ、天文雑誌に応募するくらいしかなかったのに、ありがたい時代です。
 
趣味でも仕事でも、楽しんでやっていると自然と成果が上がると思います。僕は手帳に目標を書くようにしているのですが、不思議とその通りになるんです。「3年後に写真集を出す」って書いたら、ちょっとズレたけど4年後に実現しました。信じていれば夢は叶いやすいのかもしれません。すべてうまくいくわけではありませんが、今のところだいたい実現しています(笑)。

――お話を伺い星景写真にとても興味を抱きましたが、撮影は初心者には難しいですか?

できますよ! まず星にピントを合わせ、絞りをできるだけ開いて感度の数値を大きめにし、20秒くらいのシャッタースピードで撮影してみてください。そこで撮れた写真を基に数値を調整していけば設定しやすいです。ネットで調べれば星景写真の撮影方法を紹介したサイトがたくさんあるので、そういったものを参考にしてもいいでしょう。
 
今はカメラの性能もよくなっているし、星をきれいに撮るモードが内蔵されたカメラもあるから、手持ちのもので十分。はじめから買い揃えなくても、調整する中で必要だと感じたら買い足せばいいと思います。ただ、撮ったままの状態では画像がぼやっとしている場合が多いので、画像処理ができた方がいいですね。ただし最初はあまり深く考えず、まずは近場から始めるのがいいかもしれませんね。月が出ていると月明りで星が消えてしまうので、撮影は月の出ていないときがおすすめです。
 
星景写真はセンスも大事ですが、まずは楽しむことが一番。写真のほうが肉眼で見るよりも星がたくさん、しかもくっきり見えるので、夜空の美しさを実感できるはずです。
書籍情報
タイトル:『SKYSCAPE PHOTOBOOK 星空風景』
作:前田徳彦
発行:株式会社誠文堂新光社
定価:1,000円(税別)

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