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物語の舞台を巡る Book Trip Vol.2

テミスの休息

離婚後、息子と共に横浜・鶴見に居を構えた沢井涼子。離婚した8年前の夏、雑居ビルに荷物を運ぶ弁護士・芳川と出会ったことをきっかけに、涼子は芳川が開設した小さな法律事務所で事務員として働いていた。婚約破棄された女性、息子を過労死で亡くした男性など、苦しみを抱えた依頼人のために誠実に、最善を尽くす芳川と、それをサポートする涼子。今日もまた救いを求めて、新たな依頼人が「芳川法律事務所」の扉をたたく。
 
書籍情報
タイトル:テミスの休息
著者:藤岡陽子
発行所:祥伝社
価格:¥1,500+税

ピックアップコラム

その小さな法律事務所は冬の陽だまりのようでした。
 
本作の舞台となるのは、横浜市鶴見区にある小さな法律事務所。とはいえ、この物語は、弁護士が鼻息荒く法でバッサバッサと悪人を裁く、いわゆる“弁護士モノ”ではありません。描かれているのは、法律とは無関係に生きてきた人たちの息遣い。すべて訴訟がらみの内容ながら、「心情までは、法では裁けないのだ」としみじみ実感させられます。依頼人ごとに話が切り替わる連作短編集のため、読みやすいところもお薦めポイント。1話ずつそれぞれに、人の優しさが紡がれていて、この本を手に取った人はきっと言葉をかみしめながらゆっくり、大切にページをめくることになるはず。それにしても本作から受け取る、陽だまりのような温もりはどこから生まれてくるのでしょう。もちろん著者・藤岡陽子さんの文章の柔らかさが一つ。そしてもう一つ、舞台となった鶴見の土地柄も、その一片を担っているといえそうです。鶴見といえば海も川もあり、旧東海道が通る歴史の街であり、さらに京浜工業地帯の中心地でもある、たくさんの顔を持つ場所。さまざまな人情が交差する鶴見なら、あの温かい物語が生まれたのも、なんだか納得がいくような気がします。鶴見に立ち寄った際は、「テミスの休息」の世界感に浸るのもよいかもしれません。

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