環境をつくる住まい

03中間領域が生む、小さな経済圏 Vol.1

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家の作品を通して読み解いていきます。

Vol.1 仲建築設計スタジオ 閉じすぎない環境に、楽しく住まう

03中間領域が生む、小さな経済圏

個人(私)と社会(公)の間、内と外の間にある「中間領域」という空間。実際に、どのような中間領域が人々に好まれ、利用されているのでしょうか。仲建築設計スタジオの作品とともに、人と人が繋がる楽しい空間をご紹介します。
仲建築設計スタジオ

仲俊治(Toshiharu Naka)
1976年京都府生まれ/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2001〜08年山本理顕設計工場/2009年建築設計モノブモンを設立/2012年株式会社仲建築設計スタジオに改組
 
宇野悠里(Yuri Uno)
1976年東京都生まれ/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2001〜13年日本設計/2013年〜株式会社仲建築設計スタジオ
 
仲建築設計スタジオHP: http://www.nakastudio.com/
アパートと地域を食堂がつなぐ——小さな経済圏

食堂付きアパートメント
1階に食堂、地階にシェアオフィス、2〜4階にSOHO(仕事場付き住宅)が入る(撮影:仲建築設計スタジオ)

——仲建築設計スタジオの設計「食堂付きアパート」(2014年竣工)は、SOHO(仕事場付き住宅)と食堂、シェアオフィスが混在する建物です。どうしてこのような複合施設になったのでしょうか。

宇野 はじまりは、目黒区・武蔵小山にある木賃アパートの建て替えでした。クライアントから、「地域の役に立つものをつくって欲しい」というご依頼で、試行錯誤の結果、SOHO住戸5戸と、食堂と、シェアオフィスということになりました。
 
なぜそれが地域のためになるかというと、まずは住宅が居住専用ではなくSOHOであることが重要だと思っています。日中、その建物に人がいて、仕事をしていると、地域に根付く可能性が高いですから。お店や事務所であれば、外への意識もありますし。
 
仲 最初、「コミュニティ・カフェ」を提案し、クライアントが興味を示してくれたことが「食堂」併設になったきっかけです。クライアントは地元商店会の会長を務めていた人だから、住民ひとりひとりが手に職をもち、それを媒介として他者や外部と繋がることを、ごくごく自然なことだと考えていました。
 
それで、クライアントと議論を重ねているうちに「小さな経済」という言葉に、僕たちは辿り着きます。食堂とSOHOが、小さな経済循環を生むために、どのような建物をつくればよいかと考え始めました。
 
SOHOやお店が外に対して開放されている状態でないと意味がないと考え、空間の境界のつくり方に気を遣っています。たとえばSOHOユニットは、外部に面してアトリエをつくり、プライバシーの高い空間は奥に配置しています。これは、「五本木の集合住宅」での住宅3戸も同じつくり方にしています。
 
食堂は、街に対して開くと同時に、 住人が打合せをするときは、外部から少し距離をとれるように段差を設けたりしています。ランチとディナーの間のお客さんが少ない時間には、住人が打合せに利用できるとか、運営上の工夫もしています。
 
用途が複合することで、うまく空間を利用でき、ライフスタイルの提案もできるのではないかというのが「食堂付きアパート」で試みたことでした。

食堂付きアパート 平面図

「立体路地」と名付けた場所はただの通路ではなく、洗濯やBBQなど生活の場がゆるく滲みでる提案。
これからの集合住宅を、より楽しく住むために

スイスのヴィトラ・デザイン・ミュージアムで行われた「Together! The New Architecture of the Collective」展(©Vitra Design Museum 2017)

——戦後、都市化の中で高密度に住むことが集合住宅の目的だったとすると、今後は集合の目的が変わってくるのでしょうか。

仲 そうかもしれません。核家族向けにつくられてきた集合住宅を変えていこうというのは、世界的な動きのように感じています。2016年のヴェネチア・ビエンナーレ日本館に出展したのですが、そこでの評価がきっかけでした。その後、2017年に家具で有名なスイスのヴィトラ・デザイン・ミュージアムで「Together! The New Architecture of the Collective」という展覧会があり、これは、世界中のこれからを示唆する集合住宅を集めた展覧会でした。僕たちは、先ほどの「食堂付きアパート」を出展するとともに、世界の先端的な集合住宅を見たり話を聞いたりしました。
 
印象に残っているのが、スイス・バーゼルの音楽家の卵のための集合住宅です。音楽家というマイノリティーをどのように社会に位置づけるか。彼らが思いっきり練習できるよう、練習場付きの集合住宅をリノベーションでつくっていました。練習場を地域の人にも開放し、周辺の人はそこで楽器を教わったり、週末はミニコンサートを楽しんだり。併設されたカフェで、コンサートの後には皆が食事をするというような……。特徴のある人が住むことで、周りにも恩恵が生まれる集合住宅の事例です。周りの人が温かく見守ることで、音楽家も育つ。相互扶助が生まれる建築があることがよくわかりました。
 
驚いたのは、ヨーロッパの集合住宅は公有地に建つことが多く、少数派のための住宅を公共が担っていたことです。そうしたチャレンジこそ、公共が行うという価値観があるんですよね。
 
最近、そうした社会的な建築が注目されています。でも、僕はそれだけでは人間中心すぎるなと思うんです。もちろん人の関係性をつくることは大事ですが、環境的持続性や生物の多様性を一緒に考えないと建築としては不足かなと。
 
それでふたつの循環が可能な建築を目指しています。人付き合いのソーシャルな循環と、エコロジカルな自然エネルギーをつかった地球資源の循環。そのふたつを掛け合わせたところに、持続的で開放的な場所をつくっていきたいと思っています。
 
(Vol.1 仲建築設計スタジオ「閉じすぎない環境に、楽しく住まう」 完)

「五本木の集合住宅」の中にある、仲建築設計スタジオ(撮影:稲継泰介)
Vol.1 仲建築設計スタジオ「閉じすぎない環境に、楽しく住まう」全3回

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