環境をつくる住まい

02自然の循環とともに暮らす Vol.1

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家の作品を通して読み解いていきます。

Vol.1 仲建築設計スタジオ 閉じすぎない環境に、楽しく住まう

02自然の循環とともに暮らす

できるだけエアコンなしで快適に過ごしたい。多くの人が望む住環境を獲得するために、仲建築設計スタジオの仲俊治さんと宇野悠里さんは、今まで培ってきた断熱や気密の技術だけでなく、環境シミュレーションやさまざまな半屋外をつくってきた経験を駆使した自宅をつくりました。さて、どのような工夫を凝らしているのか、お伺いしました。
仲建築設計スタジオ

仲俊治(Toshiharu Naka)
1976年京都府生まれ/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2001〜08年山本理顕設計工場/2009年建築設計モノブモンを設立/2012年株式会社仲建築設計スタジオに改組
 
宇野悠里(Yuri Uno)
1976年東京都生まれ/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2001〜13年日本設計/2013年〜株式会社仲建築設計スタジオ
 
仲建築設計スタジオHP: http://www.nakastudio.com/
建築デザインで涼やかな環境をつくる

五本木の集合住宅
ぎざぎざ屋根の谷樋に雨を集めて、打ち水や植物への水やりに利用。(撮影:仲建築設計スタジオ)

——クリオマンションでも環境共生型集合住宅として、グリーンカーテンや中庭に水盤を設けるなど、さまざまな取り組みをしています。仲建築設計スタジオでは、どのような試みをしているのでしょうか。

宇野 私たちの自宅兼設計事務所の「五本木の集合住宅」は、実験的な試みをいろいろしています。
 
ぎざぎざ屋根が特徴ですが、これは雨水を集める装置になっています。谷樋がそれぞれの屋根の間にあり、小分けに雨を集めています。雨が降ると、まず2階の水桶に溜まります。それが溢れるとシャンパンタワーのように下階である地上の天水桶に水が流れ込む仕掛けになっています。そこに溜まった水を打ち水や、入口の前にあるグリーンルーバー(立体花壇)の水やりに使っています。
 
日本には、エアコンに頼らず自然の通風、採光で室内が心地よくなる中間期というのがあります。建築の設計を工夫することで、中間期を長くできます。つまり、空調に掛かるエネルギーを使わなくてもよい時期が長くできます。たとえば、軒で日射を防いだり、窓の位置を検討することで風通しをよくしたり。そういう地道な努力が効果的で、ひとつひとつの建物で実践しています。
 
少し専門的な話をすると、「五本木の集合住宅」では、建物のかたちや大きさを検討するとき、日影のシミュレーションをしています。太陽の位置と建物の関係を考えて、夏はなるべく壁面に日が当たらないようにし、冬は壁面に日が当たるように、軒の出や高さをコントロールしているんです。つまり日射の効果を最大限に高めています。
 
また、南北に風がながれるように、通風のシミュレーションをして、窓の位置や開き方についても決めています。

設計時に建物の日影をシミュレーション。夏はなるべく直射が入らないように軒の出や高さを調整している。

南北に風が通るようにシミュレーションをし、窓の位置を決める。
植物もメダカも、実験と観察

——入口のグリーンルーバー(立体花壇)や、メダカを飼っている天水桶は、コミュニケーションのきっかけになっていると同時に、環境装置になっているということですね。

仲 ソーシャル(社会的)にもエコロジカル(環境的)にも、閉じすぎない中間領域が有効だというお話を前回にしました。今回は、エコロジカルな視点で、中間領域のよさをお話したいと思います。
 
まず、1階の軒下を夏のクーリングスポット(涼しい場所)としたいと思ったことから、天水桶と日除けになるルーバーを設置することにしました。
 
玄関前のルーバーです。ひとことでルーバーといってもいろいろなデザインがあります。おなじ設けるなら楽しいほうがよいので、緑が育つルーバーがいいなとグリーンルーバーと名付けた立体花壇を考えました。
 
これらは日除け効果にもなり、さらに保水力があるので蒸散作用(植物から水分が蒸発すること)で涼しい空気を得ることができ、表面温度が20度も低い状態になります。ヒートアイランドの抑制にもちょっとは役に立ちます。地面への打ち水だけではなく、グリーンルーバーに打ち水すれば、そこに面した仕事場への輻射熱が低減されるので、涼やかになります。
 
植物が風にそよぐので、風を見える化する効果もあって、感覚的にも涼しいです。グリーンルーバーの土には、壁面緑化用の固化培土というものを使っていますが、そこにどんな種類の植物がよいか、いろいろ試みているところです。

——メダカも、何か環境的な効果があるのですか?

仲 天水桶は開放的なのでボウフラが涌きやすい。そのボウフラを抑制するためにメダカを飼ってみることにしたんです。
 
メダカの糞をバクテリアが分解し、水草が養分として吸収する、といった生態系をつくれるらしく、試しています。また、酸素を送るエアポンプが必要だと友人から教わりました。ポンプは、ソーラーパネルで動くものにしたところ、日が当たっているとよりブクブクします。暑いときほど酸欠になるそうなので、ソーラー式は理にかなっていると思います。
 
水質のチェックをときどきしていますが、目黒区の雨はpH5くらいで酸性雨です。でも桶がコンクリートでアルカリ成分を出すので、だんだん水質がアルカリ性になってくることも分かってきました。メダカにとっては、実はアルカリ性の方がよいこととかも、今、学習している最中です(笑)。

(撮影:稲継泰介)
マンションでもできる夏の対策とは?

——グリーンルーバーのように、窓辺やベランダでできる工夫はあるのでしょうか。

宇野 へちまカーテンやゴーヤカーテンは、われわれのグリーンルーバーと同じく直射日光を防ぎ、窓辺を涼しくする効果は大きいと思います。グリーンルーバーは保水力のある土があることが利点なのですが、このグリーンルーバーを導入することはすぐには難しいと思いますが、検討してみるといいかもしれませんね。
 
仲 家の前の植物など、環境効果だけでなく、やはり人とのコミュニケーションのきっかけにもなるといいなと思います。だから、もしかしたらベランダだけじゃなく、共用廊下にもあると、隣人関係を生むきっかけになるのかもしれません。ちなみに共用廊下はいつも北側にありますが、はたしてそればかりでいいのか。南側に共用廊下があることの価値や可能性もあるはずです。
 
また、建具のデザインもまだまだ可能性がありますよね。多くの玄関ドアは、ただ開くか閉じるか二択のものが多いですが、視線は通すけど熱や音を通さないとか……。これから、いろいろデザインしていけたらいいなと思っています。

——次回は、住まいと住人のコミュニティについてお伺いいたします。

(撮影:稲継泰介)

五本木の集合住宅 平面図
Vol.1 仲建築設計スタジオ「閉じすぎない環境に、楽しく住まう」全3回

PAGE TOP