環境をつくる住まい

Vol.4 03 リ・パブリック=ふたたび、公共へ

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家などの作品や活動を通して読み解いていきます。

Vol.4 馬場未織/南房総リパブリック 地域の魅力発信で、未来に里山つなぐ

03リ・パブリック=ふたたび、公共へ

人口減少が進む中、全国で空き家が820万戸あると言われています。南房総も例外ではありません。南房総リパブリックは、それらを活用しながら、地域の新たな魅力づくりへと活動を展開中です。
馬場未織/南房総リパブリック

馬場未織(Miori Baba)

1973年東京生まれ。日本女子大学住居学科修了後、建築設計事務所を経て建築ライターに。2007年から、家族5人とネコ2匹で東京都世田谷区と千葉県南房総市の二地域居住を開始。南房総の農家や、友人と共にNP0法人南房総リパブリックを設立し、地域創生となる活動を展開中。同法人理事長、著書に『週末は田舎暮らし』。

エコリノベで古民家を快適に

断熱リノベーションをDIYで行うワークショップ。障子の桟の間にポリカーボネートで空気層をつくる断熱障子を作製中。(写真提供:南房総リパブリック)

築100年の古民家を改修したリビング。床と天井に断熱シートを入れることで、「ずいぶんと快適になった」と馬場さん。(撮影:稲継泰介)

——民家などを自分で断熱改修する方法を学ぶ、DIYエコリノベという参加型のプログラムを毎年開催していますね。なぜそのような活動をすることになったのでしょうか。

馬場 現代の住宅は、高断熱高気密が当たり前になりつつありますが、築100年の古民家で生活をしてみると「低断熱・低気密」。スースーと家の中を風が吹き抜けます(笑)。南房総は比較的温暖な地域なので、厚着をしてがまんをすればなんとかなりますが、やはり気持ちよく過ごせる住まいであることが重要だと考えました。

そこで、建築家の竹内昌義さん(エネルギーまちづくり社みかんぐみ)、河野直さん(つみき設計施工社)に講師をお願いして、断熱改修を教わることになりました。2016年からワークショップの参加者を募集して、毎年1軒ずつ、我が家もふくめてDIYで改修してきました。

参加者と一緒に未来のライフスタイルを考えるのがDIYエコリノベです。省エネや断熱の基礎知識から、なぜ今断熱が必要かを座学で学びます。それから、南房総の空き家などを活用して、ワークショップで実際に手を動かし、床下断熱、屋根裏断熱、断熱障子の製作などを実践します。そうすると、断熱によって家の中の環境が変化することを「体感」できます。その体験が大切だと思います。

費用面でも、業者さんに依頼すると数百万円くらいかかるところ、DIYで行えば数十万円の費用で抑えられるのも魅力のひとつです。

空き小学校を地域資源に

へぐり小学校の未来予想図。(図提供:南房総リパブリック)

——廃校になった小学校、幼稚園、保育所を、マルシェや宿泊に活用するイベントの運営をされています。きっかけを教えてください。

馬場 きっかけは、エコリノベをする空き家を探していたところ、南房総市から「空き公共施設ならあるよ!」と紹介頂いたのが旧・平群(へぐり)小学校、幼稚園、保育所でした。

NPOのメンバーは驚くほど前向きで(笑)、昨年から「へぐり小へいこう! 旧平群小学校再生プロジェクト」という活動をスタートして、全体の構想を描きながら、少しずつプログラムを立ち上げているところです。

それ以前に、市と南房総リパブリック、東京大学の社会文化環境学・清家剛研究室とが一緒に空き家の調査をしたことがありました。南房総市内約17000戸のうちの6000戸が空き家で、そのうちの3000戸は持ち主が南房総市外に居住しています。その方々に市から送る郵送物の中に、アンケートを入れていただきました。500通くらいの回答があり、大学とNPOでそのデータ分析を行い、結果を市に提出しました。そんなことがあったので、まちの未来を真面目に考えているNPOだとご理解いただいていたのではないかと……。

旧・平群小学校は、いわゆる「モダン建築」で、ステキな建物です。でも、この校舎群は、使われなければ解体される運命だと聞いて、NPOのメンバーは「それは惜しい」と考えるようになります。何度も地域の人たちと話を重ねる中で、「この校舎群を残すことは、南房総の価値を高めることにつながる」と確信を深めることとなります。

 

へぐり小学校の校庭にて、2階建ての「モダン」な白い校舎の活用について構想を語る馬場さん。(撮影:稲継泰介)

——指定管理で校舎を運営するのでしょうか。

違います。NPOが市から借り受けて、運営していくので、大変です。リノベーションして、カフェやホステル、企業研修で使えるような場所にしたい、などいろいろ構想を練っていますが、一気にやることはできないので、できることから少しずつですね。

現在、へぐりマルシェをしたり、MEETS 南房総という食のプログラムをしたり、週末のイベントを開催しています。館山自動車道「鋸南富山インター」から車で約10分と、都内からのアクセスもよいので、ぜひ遊びにきてください。

廃校をつかったプログラムの構想。(へぐり小へいこう! 旧平群小学校再生プロジェクト)の特設サイトより)
パブリックな暮らしをデザインする

2018年9月にへぐり小学校で開催されたフリーマーケット「ナイトマルシェ」。南房総の農家に出会い、食を楽しむ一泊二日のプログラムMEETS南房総と同時開催。(写真提供:南房総リパブリック)

MEETS南房総では、地域の食材をつかった料理家による朝食を楽しむ。自然に囲まれた校庭レストラン。(写真提供:南房総リパブリック)

——なぜ、地域の未来のことを考え、行動するのですか?

馬場 南房総と東京の二地域居住を始めたときは、「自然が好き」な家族のライフスタイルのことをただ考えていました。でも、もともと建築やまちづくりのことを考えるのが好きで、それがいつのまにか、地域創生とリンクしはじめたという感じです。

メンバーはみんなパブリックマインドが高いので「地域内外の人達が喜ぶ姿が見たい」という気持ちで、動くことができていると思います。未知の世界に入って、事業や活動をつくっていくのは確かに面白いですが、だんだんと責任も大きくなってきます。ただ、南房総の里山環境の価値を高めるという公益性の高いことに挑戦をしているのが、モチベーションを高く保てる理由です。

NPOの「南房総リパブリック」という名前を決めるとき、「リ・パブリック=ふたたび、公共へ」という意味を込めました。里山を、ひらいて、みんなで使う。そうした暮らしのデザインをこれからもやっていきたいと思っています。

2018年10月の「へぐりマルシェ」。子どもが楽しめるワークショップなども開催。(写真提供:南房総リパブリック)

——「環境をつくる住まい」では、クリエイティブなライフスタイルが、周辺の環境に与える新しい価値をご紹介してきました。オフィスと住まいが一緒になった仲建築設計スタジオの「五本木の集合住宅」。人が緩やかに交流するまちのリビングを提案し続ける西田司/オンデザインパートナーズ。歴史や地域文化の中に普遍性を見いだし、現在、そして未来の空間へつなげる川添善行/空間構想一級建築士事務所。そして公共空間の概念を再構築し、そのマネジメントに挑む馬場未織/南房総リパブリック。読者のみなさんが、暮らしを楽しみつつ、よりよい周辺環境を創造するヒントに出会えていたら幸甚です。(取材・文:有岡三恵/Studio SETO)
Vol.4 馬場未織/南房総リパブリック「地域の魅力発信で、未来に里山つなぐ」全3回

03 リ・パブリック=ふたたび、公共へ

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