環境をつくる住まい

Vol.2 03公益的な居場所をつくる

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家の作品を通して読み解いていきます。

Vol.2 西田司/オンデザインパートナーズ まちのリビングをつくる

03公益的な居場所をつくる

2011年3月11日、東日本大震災で宮城県第二の都市、石巻市は大きな被害をうけました。まちの復興のため、西田司さんは地元の有志らと共に、まちづくりの法人「ISHINOMAKI 2.0」を立ち上げます。建物を修復するだけではなく、人が集まる場づくりに寄与し、今もなお活動は継続中。
西田司/オンデザインパートナーズ
西田司(OSAMU NISHIDA)
1976年神奈川県生まれ/1999年横浜国立大学卒業、同年スピードスタジオ設立/2002〜07年東京都立大大学院助手/2004年オンデザインパートナーズ設立/首都大学東京研究員、横浜国立大学大学院(Y-GSA)助手など歴任
 
西田司/オンデザインパートナーズHP: http://www.ondesign.co.jp/
(撮影:稲継泰介)
個人の思いがまちを変えていく
まちのひとたちの声をあつめた『石巻VOICE』(写真提供:ISHINOMAKI2.0)
——3.11の後、石巻で継続的に復興まちづくりの活動をされています。どのような経緯で始めたのでしょうか。
西田 最初に石巻に足を運んだのは2011年の5月でした。きっかけは、大学の先輩で建築家の芦沢啓治さんが「設計した旅館が被災し、その修理にいく」というので、そのお手伝いでした。そのときに現地で分かったことは、建物やまちのインフラの補修と同じくらい、復興後にまちをどうしていくのかという課題があるということでした。
 
石巻の駅前にある商店街は、2000年代前半からシャッター街になり、中心部が空洞化していたんです。若い人たちは、大型ショッピンクセンターがある郊外のニュータウンに住んでいて、中心部は、昔からの時間が止まったような状態で被災をしたというわけです。
 
その後、広告代理店のワイデン・アンド・ケネディ・トウキョウ、東京工業大学でまちづくりなどの研究をしている真野洋介さんなどに声をかけ、芦沢さん、ハーマンミラー社の被災地支援プログラム、そして当時30代だった地元有志と協力し、石巻の復興に関わることになりました。オンデザインパートナーズからは3名のスタッフが常駐しましたが、やっていたのは建築設計ではなく、復興のために何をすればよいのか、トライアルをしていたという感じです。
 
まず僕たちは、まちの人に話を聞くことから始め、被災した人の声を集めた『石巻VOICE』というフリーペーパーをつくりました。まちの記憶や発災以前からのまちの課題、これからこういうことをやりたいという希望について約30人、合計4冊を発行しました。
——「ISHINOMAKI2.0」の2.0というのはどういう意味ですか?
2000年代中頃から、WEB2.0ということが言われていました。ティム・オライリーという人が提唱した概念です。それまで情報はマスメディアなどからいっぽう的に流れていたけれど、個人がWEBを通じていろいろな情報を流すことができるようになったという意味で広がっていった言葉です。
 
石巻も、マスパワーからスモールパワーへ転換する時期だと思ったので、個人の思いでまちを変えていくということにひっかけ、「石巻2.0」という活動にしました。最初は実行委員会形式でイベントなどを行っていましたが、今では一般社団法人 ISHINOMAKI2.0として、コミュニティスペース「IRORI 石巻」、街中の空き物件をDIYで改修したゲストハウスの運営などを行っています。
拠点とイベントの掛け合わせでコミュニティ再生
3.11の後、まちの拠点としてつくった「IRORI 石巻」(撮影:鳥村鋼一)
震災後すぐに誕生し、まちのインフォメーションセンターの役割を果たした復興バー(写真提供:ISHINOMAKI2.0)
——石巻の住人と一緒に復興活動を行ってきたということですね。結果的に、一般的な再開発では誕生しない場所ができていると感じます。
西田 石巻の中心に5年間で15個くらいの拠点をつくりました。たとえば2011年夏にできた「復興バー」は、天井まで浸水した店をDIYで改装したものです。飲食提供だけではなく、世界中からボランティアなどで訪れた人に、石巻の夜のまちをナビゲートする役割を果たしていました。
 
2011年12月にできたのが、まちに開いたシェアオフィス「IRORI 石巻」。IRORIはInteraction Room Of Revitalization and Innovation(再生と革新のための交流の部屋)という意味で、もともとガレージだったところをやはりセルフビルドで改修しました。2016年にリニューアルし、カフェも併設していて、さまざまなイベントの拠点になって、若い人が集まっています。
 
また2013年にオープンした「石巻 まちの本棚」は、『石巻VOICE』で話を聞いたのがきっかけとなり誕生しました。まちなかで老舗本屋を営んでいた人が「空き店舗になっている場所を提供したい」と言ってくれて、それならば本好きのためのコミュニティスペースをつくろうとなった。被災地に本を送る活動をしていた「一箱本送り隊」とISHINOMAKI2.0の協力で実現しました。今では本の貸し出しや古書販売、イベントスペースとして利用されていて、毎年夏には「一箱古本市」を開催し、全国から本好きが集まっています。
——中心市街地に若い人や、県外、海外の人が集まる拠点ができたということですね。
全国の15,000商店連合会の商店街を調査すると、ほんとうに上手くいっているのは1%という結果だそうです。そこに共通しているのは従来の商店街の中だけに閉じていないということ。若い人や外部から人やアイデアが入ってくる土壌をつくることが重要なのだそうです。
 
石巻でも、若い人や外からのアイデアを入れるとうまくいくだろうと考えて、僕たちも参加してきました。実際、最初に常駐していたオンデザインの3人のうちひとりはそのまま移住し、ISHINOMAKI2.0のスタッフになりました。彼の活躍は、僕たちが残した大きな成果かもしれません(笑)。
 
中心市街地は、郊外の大型ショッピングセンターとよく比較されますよね。でも、もはや物販を目的としない中心市街地のつくりかたがあるのではないかと思います。例えば、高校生が溜まれる場所とか、映画上映会とか、本が好きなど、趣味を共有する人達が集まる場所とか……。振り返って見ると、そうした層をターゲットとしたのが、ISHINOMAKI2.0の取り組みでした。拠点づくりとイベントなどの活動企画。このふたつの掛け合わせで、新しい人の流れができて、まちなかのコミュニティ再生が起こったと思います。
 
これからは移住者の受け入れなど、本格的な地方創生をどうやって継続していくかというフェイズに入っています。石巻の地域パワーを考えていこうとしています。
空間マネジメントに個々が関わる
横浜馬車道にあるオンデザインパートナーズの事務所にて(撮影:稲継泰介)
——「地域パワーがまちの価値を高めるということですが、たとえばマンションの価値を、住まい手が高めていくことは可能でしょうか。
西田 マンションの専有住戸部分はそれぞれ所有者のものですが、共用スペースはもっと弾力性があってもよいと思っています。利用者もたとえば住人に限定せず、IT企業がスマートガーデンを住人と一緒にやるとか、野菜栽培の教室を開催するなどであれば、住人の多くは賛成してくれるかもしれませんよね。マンションの価値を高めてる人や活動が入ることを認めるなど、意外とマネジメントの幅があると思います。
 
またマンション管理費の多くは通常、建物や設備などハードのメンテナンスコストになっていますが、もう少しソフトのランニングに投資することを考えてもよいのかもしれません。
 
昔の「公共空間」は、税金をつかったマスパワーで作られていました。でも現代では、個人個人の思いが、公益的な空間をつくっているように思います。現在関わっている巨大マンションは商業施設と複合なので、マンション管理費とは別に地域貢献のためのエリアマネジメント費を個人からも出してもらうことにしました。月々数百円で、そのエリアの価値向上に貢献してもらいます。
 
何をやるかというと、例えば防災イベント。普通に考えれば避難訓練ですが、備蓄食料品の更新時期にみんなで集まって料理して食べるとか、それをエリマネの費用で行う。
 
これまでに紹介した「ヨコハマアパートメント」や「みなまきラボ」の運営に関わるのと同じく、オンデザインは、そういう仕組み作りのお手伝いをすることが多々あります。
 
それは、パブリックな場所に発生するランドスケープや建築空間のあり方に興味があるから。そこから学ぶことで、これまでになかった価値を生み出すパブリックスペースをつくれるのではないかと思っているんです。

(書籍)TOTO建築叢書『オンデザインの実践』 西田司+オンデザイン著 発行:TOTO出版
(Vol.2 西田司/オンデザインパートナーズ「まちのリビングをつくる」 完)
Vol.2 西田司/オンデザインパートナーズ「まちのリビングをつくる」全3回

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