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親からの支援を受けて住宅購入をする際に活用できる特例とは?注意点も解説

監修者:新井 智美

 

■住宅購入時に親からの支援を受けても問題ない?

住宅購入の際、10%以上の方が親からの支援を受けています。

一般社団法人不動産流通経営協会の「不動産流通業に関する消費者動向調査」の結果報告書によると、親からの支援を受けた世帯の割合は住宅購入者全体の14.2%でした。さらに30代の購入者に限定すると、支援を受けた割合は20%を超えています。

■住宅購入時の親からの支援の平均額は?

上述した調査によると、親からの支援の平均額は以下の通りです。

  • ●新築住宅購入の場合:998.2万円
  • ●既存住宅(中古住宅)購入の場合:662.2万円

この金額では、住宅購入資金の全額をカバーすることは困難かもしれませんが、頭金としては充分な金額といえます。

●一定金額以上の贈与を受けると原則として「贈与税」がかかる

個人からの贈与によって年間110万円以上の財産を取得した場合、原則として「贈与税」が課されます。ただし、これは贈与税の課税方式の1つである「暦年課税制度」が適用されている場合です。

別の課税方式である「相続税精算課税制度」が適用されていれば、1年間に110万円を超えても一定額までは贈与税が課されません。詳しくは後述するので、正確に把握しておきましょう。

■親からの支援を受けて住宅購入をする場合に活用したい特例や制度

親からの支援を受けて住宅購入をする場合は、贈与税が課されないように以下の特例や制度を上手に活用しましょう。

  • ●住宅取得資金贈与の非課税の特例
  • ●相続時精算課税制度
  • ●暦年課税制度

それぞれについて、詳しく説明します。
なお、以下記載の内容は2023年7月時点の特例・制度です。最新の情報は国税庁のウェブサイトなどでご確認ください。

●住宅取得資金贈与の非課税の特例

住宅資金贈与の非課税の特例とは、2022年1月1日から2023年12月31日までの期間に、住宅の新築・取得や増改築などの目的で直系尊属(父母や祖父母など)から資金贈与を受けた場合に、非課税枠を利用することで贈与税の負担を抑えられる仕組みです。

非課税となる金額は、以下のように定められています。

  • ●省エネ等住宅の場合:1,000万円まで
  • ●上記以外の住宅の場合:500万円まで

以下は、適用を受けるための主な要件です。

  • ●贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
  • ●贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下(床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、1,000万円以下)
  • ●贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与を受けた住宅取得資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築・取得などをする
  • ●贈与を受けた年の翌年3月15日までに、新築・取得などをした家屋に居住する(または、居住することが確実であると見込まれる)

より詳しい内容は、国税庁ウェブサイトなどをご覧ください。なお、住宅取得資金贈与の非課税の特例は、次に説明する「相続時精算課税制度」もしくは「暦年課税制度」と併用することが可能です。

●相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から受けた贈与について、通算で2,500万円(特別控除額)までは贈与税が課されない仕組みです(特別控除額を超えた部分に対しては、一律20%の税率で課税)。

なお、贈与をした父母・祖父母が死亡した時点で、「贈与財産の贈与時の価額」と「相続財産の価額」を合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する必要があるのでご注意ください。

相続時精算課税制度の適用を受けるためには、贈与を受ける側が18歳以上である必要があります。また、後述するように税務署に対して所定の手続きも行わなければなりません。

ちなみに、同じ人物からの贈与に関しては、相続時精算課税制度と次の章で説明する暦年課税制度は併用できず、どちらか片方のみが適用されます。

相続時精算課税制度は、受贈者が贈与者ごとに適用の有無を選択することが可能です。ただし、いったん選択すると贈与者が死亡するまで継続して適用され、暦年課税制度に戻せなくなります。

●暦年課税制度

相続時精算課税制度が適用されていない場合の贈与には、暦年課税制度が適用されます。暦年課税制度の場合、年間110万円(基礎控除額)までは贈与税がかかりません。

基礎控除額を超える金額の贈与を受けた場合は、国税庁ウェブサイトに掲載されている「贈与税の速算表」の税率・控除額に基づいて贈与税が課されます。

なお、18歳以上の方が直系尊属からの贈与(特別贈与)を受けた場合は、通常の贈与(一般贈与)よりも税率や控除額の面で有利になり、課税額が少なくなります(基礎控除額差引後の金額が300万円以下の場合は、特別贈与も一般贈与も同じ課税額です)。

■住宅購入時に親からの支援を受ける場合に必要な手続き

ここでは、前の章でご紹介した特例を活用したり、制度の適用を受けたりするために必要な手続きをご紹介します。

■住宅取得資金贈与の非課税の特例を受けるための手続き

住宅取得資金贈与の非課税の特例を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの期間に、「贈与税の申告書」に所定の書類を添えて納税地の所轄税務署に提出しなければなりません。以下は、提出する書類の例です。

  • ●戸籍謄本
  • ●源泉徴収票など(合計所得金額を明らかにする書類)
  • ●新築や取得の契約書の写し
  • ●登記事項証明書
  • ●省エネ等住宅の場合は、「住宅性能証明書」など

詳細は、国税庁ウェブサイトなどでご確認ください。

●相続時精算課税制度の適用を受けるための手続き

相続時精算課税制度の適用を受けるためには、贈与税の申告書の提出期間である最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、納税地の所轄税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。

また、受贈者の氏名や生年月日、贈与者の直系卑属であることを証する戸籍謄本などの書類も添付する必要があります。記入方法などの詳細は、国税庁ウェブサイトをご覧ください。

上述したように、いったん相続時精算課税制度を選択すると撤回できません。事前に税理士などと相談し、納得したうえで手続きしましょう。

●暦年課税制度の適用を受けるための手続き

暦年課税制度の適用を受けるための手続きはありません。相続時精算課税制度を選択していない場合は、暦年課税制度が適用されます。

なお、1年間に110万円(基礎控除額)を超える贈与を受けた場合は、「贈与税の申告書」を税務署に提出し、「贈与税の速算表」に基づいて算出された金額の贈与税を納付しなければなりません。

■住宅購入時に親からの支援を受ける場合の注意点

親から住宅購入資金を受取ること自体には、法的な規制はありません。ただし、贈与税を納めなければいけない場合は、適切に申告・納付を行いましょう。贈与税を納めなければいけないにもかかわらず、申告・納付をしていない場合は、後日税務調査を受け、無申告加算税を課される可能性もあります。

住宅購入資金の贈与を受ける場合は、本記事でご紹介した特例や制度を活用することをおすすめします。そのうえで贈与税が発生する場合は、期限までに申告や納付を行いましょう。

なお、相続時精算課税制度を選択した場合、相続時に「小規模宅地等の特例」は受けられません。

小規模宅地等の特例とは、相続時に土地の相続税評価額を最大で80%減額できる制度です。しかし、特例の適用を受けるためには、土地を「相続」や「遺贈」によって取得している必要があり、「贈与」は対象外となります。

住宅を建設するための土地の贈与を受けるのであれば、事前に税理士などに相談することをおすすめします。

■住宅購入時に親からの支援を受ける場合は、特例などを活用しよう

住宅購入時に親からの支援を受けると、贈与税が課せられるケースがあります。その際は適切に申告・納付を行いましょう。

贈与税を納める必要があるにもかかわらず、申告や納付をせずに放置していると、後日税務署から税務調査を受けたうえで無申告加算税を課される可能性があるのでご注意ください。

なお、親から住宅購入資金の提供を受けた場合は、住宅取得資金贈与の非課税の特例を活用するとよいでしょう。この特例は相続時精算課税制度または暦年課税制度との併用が可能です。

どの組み合わせが有利になるのか知りたい場合や、その他お困りのことがある場合は最寄りの税務署等で相談することをおすすめします。

監修者:新井 智美

プロフィール:
コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)のほか、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)をおこなうと同時に、金融メディアへの執筆および監修にも携わっている。現在年間300本以上の執筆及び監修をこなしており、これまでの執筆及び監修実績は2,000本を超える。

資格情報: CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員

https://marron-financial.com/

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