ディスカバー北海道

史跡 白老仙台藩陣屋跡
-HISTORY-

北海道の史跡と言えば、江戸幕府によって1866年に建造された函館五稜郭が有名ですが、「白老仙台藩陣屋」はそれより10年前の1856年に設置されました。白老仙台藩陣屋跡は幕末の貴重な文化財として国の史跡に指定され、今も史跡公園として大切に保存されています。白老仙台藩陣屋跡の敷地内に立つ白老町の歴史資料館、「仙台藩白老元陣屋資料館」の武永真館長に話を伺いました。

開拓時代の陣屋の模型(仙台藩白老元陣屋資料館)

白老の歴史を紐解く

北海道の歴史は明治時代から本格化した「開拓」から始まるのが一般的ですが、白老では幕末に「国防」を目的として陣屋が形成されました。陣屋とは 幕藩体制において藩庁が置かれた屋敷、また幕府直轄領の代官の住居および役所が置かれた建物のことです。武永館長いわく「陣屋は軍隊の駐留地をイメージしてもらうとわかりやすいです。」とのことです。陣屋の歴史について次のように説明してくれました。

白老を視察する三好監物(仙台藩白老元陣屋資料館)

陣屋の適地を決定

幕末の1854年、江戸幕府はアメリカと和親条約を締結し、長く続いた鎖国は解かれました。当時の北海道(蝦夷地)は松前藩(現在の松前町)が統括していましたが、開国後のロシア勢力の南下を警戒した幕府は、松前藩単独での北方警備を困難と判断し、仙台藩と奥羽諸藩に蝦夷地の警備を命じました。幕府の命を受けた仙台藩は陣屋建築に相応しい場所を探索。仙台藩で財政や民政を担当していた三好監物(みよしけんもつ)と氏家秀之進によって、三方を川に囲まれ、自然の要塞として機能する白老ウトカンベツが適地と判断されました。

陣屋全景(写真提供:白老観光協会)

故郷の仙台を再現した白老陣屋が完成

1856年、山間の土地を巧みに利用した白老陣屋が完成。主要施設を敵の攻撃から守るために天然の河川を堀とし、土塁を築いて区画した内側に本陣・勘定所・兵具蔵、外側に稽古場や長屋を設けるなど、城と同じように外敵から重要施設を守る機能を持たせ、常時120名の藩兵が駐留していました。
「白老陣屋は故郷である仙台の光景が再現されていました。」と武永館長は言います。陣屋を挟む丘陵にはそれぞれ陸奥国一宮の「塩釜神社」と、仙台にあった「愛宕神社」が建てられています。仙台藩士たちは家族を残して陣屋の運営をしていました。陣屋を故郷に似せることで思いを巡らせていたのかもしれません。

陣屋屋敷跡

アイヌ民族との共生と戊辰戦争による陣屋の終焉

陣屋の運営はアイヌ民族の協力が不可欠でした。当時、蝦夷の各地で不当な交易によりアイヌ民族とトラブルが発生していましたが、白老では場所請負人(アイヌ民族と交易を行う商人)野口屋又蔵の功績により、良好な関係が保たれていたと言われています。「仙台藩ではアイヌ民族に対して適正な交易に努め、産業や経済をもたらしたことが共生を可能にした。」と武永館長は言います。
共生はいつまでも続くと思われましたが、1867年に幕府が倒され、翌年に戊辰戦争が勃発。賊軍となった仙台藩を盟主とする奥羽越列藩同盟は新政府との全面戦争を決意したため、新政府は白老へ陣屋追討軍を向ける計画をすすめていました。それを察知した仙台藩士たちは追討軍の到着を前に仙台へ撤退。これにより12年に及んだ陣屋の歴史に終止符が打たれました。

幕末の歴史を今に伝える『仙台藩白老元陣屋資料館』

『仙台藩白老元陣屋資料館』が開館

仙台藩士が去った後、倒れるままに放置されていた墓石を1906年に地域住民が発見し、陣屋跡の保全と整備に向けた活動が始まります。幕府統括時代の姿をとどめる陣屋跡は、貴重な文化財として1966年に史跡となり、1984年に史跡の一隅に武家屋敷をモチーフとした『仙台藩白老元陣屋資料館』が開館しました。

約300点におよぶ資料を展示

資料館の意義

資料館では蝦夷地出兵と陣屋造営の経緯を導入とし、白老での暮らしやアイヌ民族との交流を展示しています。収蔵資料は縄張図などの図面が豊富で、武具なども約300点を展示しています。 「貴重な史跡ながらあまり存在が知れ渡っておらず残念です。」と武永館長。白老のアイヌ民族は、自分たちの生活や風習、文化などを人々に知ってもらうことで理解を得ようとし、それが観光という仕事を生み出しました。「ウポポイはその集大成と言えるでしょう。」と武永館長はウポポイ誕生を喜びます。資料館でもこれまで以上に仙台藩士とアイヌ民族の交流を強調した展示にしたい考えを話してくれました。

樹齢160年を超える藩士植樹の赤松

白老仙台藩陣屋跡を散策

白老仙台藩陣屋跡では間取りが復元された屋敷跡や、160年以上前に藩士が植樹した赤松、強固な土塁などを見ることができます。白老町民たちの「白老にかつての故郷の風景を再現したい。」という思いから建設された塩釜神社や愛石神社は、今も白老の人たちの手によって大切にされています。

陣屋を望む場所に建つ塩釜神社

塩釜神社を訪れる

「塩釜神社か愛宕神社、どちらかひとつ神社を見て行ってください。」という武永館長の勧めで、北西の丘陵地にある塩釜神社を訪れてみました。うっそうとした林の中、苔蒸した階段が丘の上まで続いています。藩士たちは国防のために約2年の任期で白老に駐留していました。故郷に似せた陣屋を見下ろしながら、家族との再会を待ち焦がれていたことでしょう。

仙台藩白老元陣屋資料館

所在地:北海道白老郡白老町陣屋町681-4
入館料:一般300円 小中学生150円
開館時間:9:30?16:30
休館日:毎週月曜日(祝祭日は翌日)年末年始(12/29?1/3)
http://www.town.shiraoi.hokkaido.jp/docs/2013012200410/

監修:仙台藩白老元陣屋資料館