ディスカバー北海道

チーズ
-CHEESE-

チーズの産地「十勝」

酪農王国とも言われる十勝は、「チーズ王国」でもあります。
北海道にあるチーズ製造工場の約半数が集中している十勝。十勝ブランドを冠したチーズ製品で知られる明治乳業(芽室町)や、雪印乳業(大樹町)、よつ場乳業(音更町)といった大手乳業メーカーの工場があり、30以上のチーズ工房が点在しています。なんと国内生産のナチュラルチーズの約7割を十勝産が占めています。
十勝には、チーズづくりの環境として理想的な条件が揃っています。
生乳が多く取れることも理由の一つですが、興味深いのが「北緯43度」に位置していることです。この「北緯43度」は発酵食品を作るにはうってつけの環境で、世界でもヨーグルトで有名なブルガリア、ワインの産地イタリア・フランス、ビールの産地アメリカ、チーズづくりが盛んなイタリアのトスカーナ地方やフランスのプロヴァンス地方も同じ緯度にあります。
さらに十勝川(とかちがわ)、札内川(さつないがわ)、歴舟川(れきふねかわ)と清流が多数あることもポイント。チーズづくりには多量の水を使うので美味しく、きれいな水があることも必要不可欠なのです。

ナチュラルチーズ:乳を固めて発酵熟成させたもの
プロセスチーズ:ナチュラルチーズを細かく切り刻んで加熱溶解し、乳化剤などを加えて再成形したもの

共同でひとつのチーズ製品をつくる

『十勝品質事業協同組合』事務局長の下里洋司さんに話を聞きました。
「十勝のナチュラルチーズは、全国的にも有名ですが、その大半は3つの大手乳業メーカーによるものです。『十勝品質事業協同組合』は、大手乳業メーカーとは異なる十勝ブランドのチーズを作ろうと、複数のチーズ工房、民間企業、金融機関や農家などが連携して、2015年5月に設立され、共通ブランドである『十勝ラクレットチーズモールウォッシュ』をつくり始めました。本来であれば競合となるチーズ工房各社が、全ての製法レシピを共有化し、十勝産の生乳を使ってつくった凝乳(グリーンチーズ)を共同熟成庫に運び込んで、約2-3ヶ月間熟成させてつくられています。それぞれの工房では、個性あるチーズづくりを追求しながらも、この『十勝ラクレットモールウォッシュ』だけは「十勝固有のチーズ」として全国に、そして世界に発信していこうという共通の思いがあります。

世界でもここだけ「モールウォッシュ」

十勝エリアには、上に述べたチーズづくりのための理想的な環境に加えて、『美人の湯』と言われている十勝川温泉があります。この十勝川温泉は、世界でも珍しい植物性由来の有機物を多く含んだ「モール泉」なのです。
温泉がチーズとどんな関わりがあるかというと、ラクレットチーズは熟成が進むにつれて、表面がリネンス菌の働きでオレンジ色になり、全体の風味が増していきます。この菌を立ち上げるためには、酸性のグリーンチーズの表面を中性側にふっていく必要があり、アルカリ成分をもつモール泉がその役割を果たします。
モール泉をベースに塩とリネンス菌を加えた磨き液で2日に1回程度ウォッシュしてひとつひとつ丁寧に熟成することで、雑味が取れてクリアな味になり、芳醇で香り高い優しくまろやかな味わいのプレミアムチーズができ上がります。
フランスのチーズギルド(職業組合)の会長さんが視察に来られた際には『こんなチーズは世界でもここだけ。』と評価され、まさに十勝の風土が作り出した逸品となりました。

十勝品質事業協同組合

北海道河東郡音更町十勝川温泉北14-4-7
TEL.0155-67-6080

『十勝品質事業協同組合』に参加しているチーズ工房を2つご紹介します。

ゆっくりと時間をかけてつくる手づくりのチーズ

新得町の「牛乳山」と呼ばれる山の麓でチーズづくりをする『共働学舎新得農場』は十勝でナチュラルチーズをいち早く手がけたパイオニア的存在です。約100頭ほどの牛が自然のなかで放牧され、その牛のミルクを使って日々チーズづくりをしています。

“共働学舎”とは、「競争社会ではなく協力社会を」という想いから、心や身体に悩みを抱えている人たちが共同生活を送りながらものづくりをする場所として、始まった取り組みです。
1978年かつて町営の放牧場だった場所に農場を開き、牛乳を出荷していました。しかし、それだけでは生活が成り立たちませんでした。スローペースで生きる人たちでも生み出せるものは何か。考えたのが、当時、ほかの酪農家は手を出さなかったハードタイプのナチュラルチーズでした。「じっくり時間をかけて熟成させなければ、本物の味に仕上げることのできない製法のチーズづくりは生活に合っている」との想いから、1987年にチーズに適した牛乳を出すブラウンスイスを手に入れてチーズづくりのための農場としてスタートしました。

フランスの第一人者の教えを受けたチーズづくり

チーズづくりの教えを受けたのは、フランスのチーズの第一人者で、権威あるAOCチーズ協会会長ジャン・ユベール氏です。「牛乳を運ぶな」という教えは、本物のチーズづくりに最も大切な言葉でした。
共働学舎新得農場では、トレーサビリティをつなげておくことや品質保証をしやすいことから牧場内で搾った牛乳だけを使っています。
機械などを通して牛乳本来の味が劣化してしまったり、新鮮さが失われたりしてしまうのを防ぐために、牛舎、搾乳室からチーズ工場へ牛乳を流す仕組みは、極力距離を縮め、自然の傾斜を生かして、生乳を傷めないように工夫されています。衛生的に搾りたての生きた牛乳を傷めなければ、発酵作用により雑菌を抑えてチーズをつくることができるのです。
また、共働学舎新得農場では、機械に頼らず、ほぼ全工程手作りで、チーズづくりを行なっています。ソフト系、セミハード系、ハード系と、チーズのタイプによって製造方法や熟成期間が異なるので、チーズの種類ごとに一人の職人が最初から最後まで責任を持って面倒を見て作り上げていきます。ユベール氏の「昔ながらの製法を基準に伝統の味を守る」という教えを守って作られているチーズは、モンドセレクション最高金賞や国際的なチーズ品評会でも高く評価されています。

さくら <季節限定商品>

要人をうならせた、メイド・イン・ジャパン

ヨーロッパには「山のチーズオリンピック」という国際的なチーズコンテストがあります。“傾斜がきつい”、“標高が高い”など、立地条件の厳しい山間の牧場で作られているチーズを対象にしたコンテストで、昔ながらの方法で人の手をかけたこだわりのチーズが世界中から集まります。そんな「山のチーズオリンピック」で本場の欧州をおさえて日本初の金メダルを獲得したのが、共働学舎新得農場が作る「さくら」。ちょこんと乗ったピンクの花が可愛らしいチーズです。
「さくら」は、見た目はカマンベールチーズに似ていますが、実は全く違います。カマンベールは白カビで作るが、「さくら」はジオトリカムという微生物や味噌などにも使われる酵母などを生成させて作っている。カマンベールよりも皮の部分がふわふわとやわらかく、まろやかなのが特徴で、桜の葉と花びらを添えることで全体に風味をつけている。2007年に行われた洞爺湖サミットの際には、晩餐会にも出され、各国の要人をうならせた一品です。
「さくら」は世界のチーズ通に衝撃を与えたメイド・イン・ジャパンのチーズなのです。

共働学舎新得農場

北海道上川郡新得町字新得9-1
TEL.0156-69-5600

オリジナリティあふれる10種以上のチーズを製造

幕別町の畑や牧草地が広がる農村にある『チーズ工房NEEDS』。1923年からの歴史を持つ「新田牧場」敷地内に工房があり、周りを600haの牧草地で囲まれています。
チーズ工房NEEDSが設立されチーズの製造が始まったのは2003年。衛生管理の行き届いた工場内で熟成期間や製法の異なるさまざまなチーズをつくっています。4ヶ月以上熟成のハードタイプのチーズからフレッシュタイプのモッツァレラチーズ、ひょうたん型の形が特徴あるカチョカバロなど10種類以上あります。その他にも飲むチーズ、ミルクジャムなど多彩な商品を作っています。
中でも人気がある、NEEDSイチオシのチーズが『大地のほっぺ(セミハードタイプ)』。
塩水でウォッシュしながら重石を使わずに自重のみで水分を抜き、約2週間の熟成ででき上がる珍しいオリジナル製法のチーズです。赤ちゃんのほっぺのように柔らかいミルクのお餅をイメージし、なめらかな舌触りの食感があり、あっさりとした中にみられるコクと風味を感じられるチーズです。温めると香りが高くなり、ゆでたジャガイモに載せたり、グラタン、チーズトーストにして食べるのもおすすめです。
また工房を囲む木から命名した『槲〈かしわ〉(ハードタイプ)』は、4ヶ月以上熟成したハードタイプのチーズです。毎日職人の手で磨かれ、特有の深いコクとナッツのようなほのかな熟成香と絶妙な塩気のバランスが特徴です。
オールジャパンナチュラルチーズコンテストでの金賞など、多くの受賞歴がある商品を作っている十勝を代表するチーズ工房のひとつです。

チーズ作り体験

予約制ですが、チーズをつくる2種類の手づくりチーズ体験コースがあります。
【フレッシュチーズ作り】
「フロマージュ・フレ」というチーズをつくるフレッシュチーズづくりは、工房でチーズをつくっているチーズ職人に教えてもらいながら作っていきます。
朝搾りの低温殺菌されたミルクに、レンネット(凝乳酵素)を入れ、しばらく待つと、鍋の中の牛乳がぷるぷるに固まります。固まったばかりの牛乳をナイフでカットして、水切りのついた小さな型に入れ、水分が抜けたら完成です。
【モッツァレラチーズ作り】
モッツァレラチーズは、生乳から作るのではなく、カードと呼ばれるチーズのもとにお湯を注ぎ、練り上げて成形していきます。練り続けると、表面がなめらかになり粘りが出てきます。チーズを氷水につけて、熱が冷めれば、美味しいモッツァレラチーズの完成です。

作った出来立てのチーズは、ピザやサラダにしてその場で食べることもできます。
できたてのチーズはミルクのおいしさがつまっていて、くせもなくあっさりとしたおいしさ、ここでしか食べられない味です。

チーズ工房NEEDS

北海道中川郡幕別町新和162-111
TEL.0155-57-2511