ディスカバー北海道

小麦
-Wheat-

日本最大の小麦の産地、十勝

雄大な畑がどこまでも広がる十勝。国内で作られる小麦の4分の1、年間20万トン強を生産する日本最大の小麦の産地でもあります。
意外かもしれませんが、かつては国産小麦のほとんどはうどん用の中力小麦で、パンの加工には向いていませんでした。しかし最近では、首都圏のお店でも「北海道産小麦粉使用」と表示されたこだわりのパンを見ることが多くなりました。
北海道ではその気候と品種改良の努力が実り、全国で最も評価の高い硬質パン用の小麦を栽培できるようになりました。現在では、道産小麦で作ったパンは、「もっちりとして食べ応えがある」と評判。産地にこだわったおいしいパンの原料の代名詞的存在になっています。

収穫したての小麦を味わう『とかち小麦ヌーヴォー』

日本国内で販売されているパンのほとんどは、大手パンメーカーによる外国産小麦を使ったパンです。そのため、小麦粉は新鮮さを問われるものではありませんでした。小麦の流通は、さまざまな工程を経て市場に出るので、収穫から半年以上かかるのが一般的です。新鮮な小麦で製粉しパンを作ることは、従来は考えられないことでした。しかし、数年前から十勝で、そうした「常識」を打ち破る新しい動きが始まっています。
それが、小麦の収穫時期である7月から8月にかけて収穫された、新鮮な小麦で作ったパンを9月23日に解禁する『とかち小麦ヌーヴォー』です。

とかち小麦ヌーヴォー委員会の事務局であり、『とかち小麦ヌーヴォー』を推進するアグリシステム(株)専務取締役の伊藤英拓さんにお話を伺いました。

「アグリシステム(株)では2009年より製粉工場を作り、契約栽培された小麦を活かすため製粉事業を開始しました。そうした中で、「十勝産の小麦のおいしさをもっと伝えたい」との思いから、6年ほど前に小麦生産者とパン屋さんをつなげる取り組みを始めたんです。
パン屋さんを畑に連れて行って、小麦生産者と直接出会い、話をする機会を作る。小麦を作る畑に触れる。そうすることで、少しずつパン屋さんの小麦に対する認識が工業製品から農産物へ変わってきたのです。また、それまでのパン作りは、外国産小麦のための製パン技術でしたが、北海道産小麦を使ったパンを作るための技術開発に取り組んでくれるようになりました。
こうした動きをさらに全国に展開したいと、4年前からスタートしたのが、『とかち小麦ヌーヴォー』です。収穫したての小麦の「季節感」やその年の「品質の違い」を楽しんでもらいたい。小麦は「農産物」であることを感じてもらいたい。という思いを込めています。特に大々的なPR活動はしていませんが、1年目から全国のパン屋さん150店が参加。2年目220店、3年目330店と着実につながりが広がりつつあります。今では、それぞれの小麦生産者には全国のパン屋さんのファンがいるほどです。また小麦生産者も、オフシーズンにパン屋さんを訪ねるなど、小麦を通じてつながりが生まれています。」

生産者代表『十勝・麦笑(むぎわら)の会』
会長 島部亨さん

毎年、多くのパン屋さんが畑の様子を見に来てくれるようになりました。みなさん、興味を持って楽しみにやってきてくれますし、私たち生産者としてもどんな小麦が求められているのか意見交換ができるいい機会になっています。そして、頑張って育てた安全・安心な小麦を「私達の小麦です!」と胸を張ってお届けできるのが嬉しいですね。

左:アグリシステム(株)専務取締役 伊藤英拓さん
右:とかち小麦ヌーヴォー事務局 遠藤智樹さん

【問合せ先】
とかち小麦ヌーヴォー委員会事務局
アグリシステム株式会社
 担当:遠藤・須田
TEL 0155-62-2887

小麦を最高に楽しむ収穫感謝祭『麦感祭』

音更町(おとふけちょう)は、小麦の生産量日本一の町。音更町では、その年の収穫をみんなで祝おうと2011年から毎年、8月第3週の日曜日に『麦感祭(ばっかんさい)』を開催しています。
『麦感祭』の事務局であるNPO法人コミュニティシンクタンク 「あうるず」の上田拓弥さんにお話を伺いました。

「7月の音更町は、見渡す限り一面が黄金色に輝く小麦畑。7月から8月にかけて収穫された小麦は、製粉工場に集められて小麦粉となり、数ヶ月後にはパンやうどんなどに姿を変えて食卓に並びます。しかし、実は収穫されたばかりの小麦の味は。農家でも滅多に知る機会がありませんでした。音更町は小麦生産量日本一の町ですが、地元でもあまり知られておらず、大きな夏祭りもなかったことから、『音更町の小麦をもっと知ってもらうために、収穫されたばかりの小麦を畑の中で食べてもらい、感じてもらおう』と農家の有志が集まって始まりました」。

当日は穫れたて小麦料理の試食をはじめ、帯広畜産大学のサークルの企画によるイベントや音更高校書道部の書道ガールズによる麦筆パフォーマンス、音更町出身シンガーソングライター流(ながれ)さんによるライブ、みんなで参加できる障害物競走やパン食い競走、麦稈(ばっかん)ロール転がし、トラクターの展示や試乗なども行われます。

音更町産小麦を使ったパンやうどん、地元のフレンチレストランによる珍しい丸麦を使ったリゾットや音更産野菜を使ったカレーなど、このイベントでしか食べられないメニューも好評です。
また、オホーツクの作家さんに協力していただいて、『ヒンメリ』という来年の豊作を祝うフィンランドの伝統装飾を麦わらで作るワークショップを開いたり、麦の茎で作ったストローを使ったり、食べるだけでなく、小麦の可能性をさぐり、感じてもらうのもこのイベントの特徴です。
他にも武蔵野美術大学による大きなわらアートも作られて、こちらのアートは麦感祭の後に満寿屋商店(十勝産小麦100%のパンを作り、東京にも出店している十勝のパン屋さん)の『麦音』(帯広市)の庭にしばらくの間展示されました。
今ではスピンオフ的に『麦感酒(ばっかんしゅ)・おとふけヴァイツェン』という小麦50%の地ビールもでき、ふるさと納税の返礼品としてラインナップされたり、地元のお店などで販売しています。
地元有志による小さなお祭りから始まった麦感祭ですが、多くのメディアにも取り上げられたり、参加者の口コミで広がり、年々参加者も増えています。大阪府や奈良県、沖縄県など十勝管外からの参加者も増えています。
毎年会場となる畑が変わるのも、この祭りの楽しみです。

NPO法人コミュニティシンクタンク あうるず
上田拓弥さんとスタッフのみなさん(左から)