ディスカバー北海道

マルトシ吉野商店
-MARUTOSHI YOSHINO-SHOTEN-

「風の町」寿都

 有限会社マルトシ吉野商店がある寿都(すっつ)は、年間の半分以上が平均風速6m以上の風が吹く強風地帯として知られています。北海道の全気象台・測候台の観測記録でも一番強い最大風速49.8m/s(1952年)を観測しています。特に冬は、海から吹く雪まじりの寒風がひゅうひゅうと音を立てて吹くほどで、これを利用した風力発電を自治体で初めて導入したことでも有名で、まさに「風の町」です。

寒風やぐら(櫓)干し

 そして、風を利用したもうひとつが、「寒風やぐら(櫓)干し」です。
鮭が豊富にとれる寿都ですが、日本海側の鮭は脂の乗りが少ない難点がありました。吉野商店では、アイヌ文化として根付いていた鮭を燻製にする伝統保存食『サッチェプ』にヒントを得て、独自の寒風干し製法を生み出しました。
 美谷(びや)の海辺には、寒風やぐら干しのための4階建ての大きなやぐらがそびえ立っています。このやぐらは、すべて手作りで作られたものです。階数によって風量が異なり、上に行けばいくほど強い風が吹き付けるため、場所によって環境が異なります。およそ2週間の乾燥期間の間、乾燥の進捗具合によってやぐらの中を海側にしたり、高さを変えたりと干す場所を変えながら最適な寒風干しを作るそうです。
 寿都は、海に面しており北海道内では比較的温暖な気候です。雪は降るものの、凍り付くほどの気温までは下がらず、海からの雪まじりの寒風は、適度な湿気を含んでいるため、寒風干しに最適です。
 風を利用して、素材の旨さを最大限に引き出す吉野商店独自の製法です。

寒風やぐら干し鮭寿荒ほぐし

 寿都の前浜に水揚げされた秋鮭の中から、脂がのり、姿が美しい物を厳選したものを職人が魚体を傷つけないように腹子や内臓を丹念に取り除き、しっかりと塩をほどこします。一般的な“あら巻鮭”では、以上の工程で完了し、後は冷凍して終わりです。
 しかし、『鮭寿』では塩をほどこした鮭をさらに荒ムシロに包み、木製の樽で1週間から1ヶ月(サイズや気温・気候によって異なる)じっくりと熟成します。熟成させると独特の「熟成香」を放ち、旨味成分が引き出されるそうです。その後、海辺に組まれた手作りの巨大やぐらで干し上げることによって、熟成によってじんわりと引き出された旨味が凝縮された『鮭寿』が生み出されます。
 「寒風やぐら干し鮭寿荒ほぐし」は、鮭寿を機械ではなく、全て手作業で荒ほぐしにして瓶詰にしていますので手軽にうまさの詰まった『鮭寿』が楽しめます。

 また、「鮭寿」をさらに半年から1年、表面にカビの生える直前まで干し続け、鮭寿の旨味をより凝縮した「鮭よりも旨い鮭」鮭の風泙も吉野商店自慢の一品です。

[取材協力]有限会社マルトシ吉野商店