2022-2023 東京大学・明和地所株式会社 共同研究

コロナ禍における生活の変化の調査と、
それを踏まえた住宅のあり方に関する
調査研究

明和地所株式会社と東京大学工学系研究科建築学専攻松田研究室は、2017年度より、マンションにお住まいの方々の暮らし方や地域とのつながりについて調査研究を行い、これからの「住まい」を考えるヒントを探ってきました。前回の調査では、コロナ禍以後拡大した在宅勤務の導入などによる住まいの課題等が明らかになりました。これに引き続き実施した本調査では、コロナ禍以後(注1)にマンションにお住まいの方々の近所付き合いの実態、自宅での感染症対策の状況と新型コロナへの感染状況を調べ、新型コロナによってどのように生活が変化したのか、把握することを試みました。

結果として、在宅勤務の導入が住まいのみならず近所付き合いにも影響を及ぼしたこと、コロナ禍以後、政府や自治体により推奨された感染症対策の導入により住まい方にも一定の影響が生じたこと、さらには感染症対策の実施状況と実際の感染の有無の関係も明らかになりました。

注1:コロナ禍以後は「新型コロナウイルスが拡大し始めた2020年2月以降」とした。

コロナ禍
以後による近所
付き合いの変化
コロナ禍以後の近所付き合いに対する交流意欲・満足度と子どもの有無との関係
これまでの調査で、マンション内外での近所付き合いに対する交流意欲と満足度は、子どもの有無によって異なることが示されている。本調査では、コロナ禍以後の近所付き合いに対する交流意欲と満足度について、高校生以下の子どもの有無によって回答を比較した。交流意欲については、マンション内では子どものいる世帯において交流が「ある方が良い」と回答した人が有意に多かった(注2)が、住まいの周辺地域(注3)では、子どもの有無による差は見られなかった。満足度についてもマンション内では子どものいる世帯において「満足」と回答した人が有意に多く見られたが、住まいの周辺地域では有意な差が見られなかった。コロナ禍以後についても、近所付き合いに対する交流意欲と満足度には子どもの有無が関係していることが示された。
コロナ禍以後の近所付き合いに対する交流意欲・満足度と子どもの有無との関係

注2:カイ二乗検定を用い、有意水準を0.05とした。以下同様である。注3:住まいの周辺地域とは、「買い物をしたり、立ち寄ったり、利用したりする、住まいから歩いていける日常生活範囲」としている。

コロナ禍以後の近所付き合いの程度と子どもの有無の関係
コロナ禍以後の交流の程度の増減については、マンション内では、全体に「変わらない」とする回答が大半を占めた一方で、高校生以下の子どものいる世帯において「挨拶が増えた」「会話が増えた」とする回答が有意に多く見られた。住まいの周辺地域では、子どものいる世帯において「挨拶が増えた」とする回答が有意に多かった。
コロナ禍以後の近所付き合いの程度と子どもの有無の関係
コロナ禍以後の近所付き合いに対する交流意欲・満足度と在宅勤務の実施状況
コロナ禍以後に著しく増加した在宅勤務が、近所付き合いに対する交流意欲・満足度にどのような影響を与えたか聞いたところ、住まいの周辺地域での交流意欲については、在宅勤務実施群において「無くても良い」とする回答が有意に多く見られた。また、マンション内の住人との交流意欲・満足度、住まいの周辺地域の住人との満足度には、在宅勤務の有無による有意な差は見られなかった。在宅勤務を実施している人は、自宅のあるマンションや住まいの周辺地域に滞在する時間が長くなった一方で、特別に近所付き合いを求めていない傾向にあると考えられる。
コロナ禍以後の近所付き合いに対する交流意欲・満足度と在宅勤務の実施状況
コロナ禍以後の近所付き合いの程度と在宅勤務の実施状況
住まいの周辺地域における交流の程度の増減と在宅勤務の実施状況の関係については、全般に「変わらない」とする回答が大半を占める一方で、在宅勤務実施群において「挨拶が増えた」「会話が増えた」とする回答が有意に多かった。在宅勤務を実施している人はマンションや住まいの周辺地域に滞在する時間が増え、その結果として、意欲に反して近所付き合いが増えている可能性があると考えられる。
コロナ禍以後の近所付き合いの程度と在宅勤務の実施状況
コロナ禍における
感染症対策の
実施状況
感染症対策の実施状況
コロナ禍以後、政府や自治体等により推奨された感染症対策について、調査協力者とその家族に実施状況を聞いたところ、帰宅直後の「手洗い、手指の消毒」や「マスクの処分」、共用部での「歯ブラシ・コップの個別管理」といった簡単に実施できる対策は実施率が比較的高かった。一方、共用部での「ドアノブ等の拭き取り消毒」、帰宅直後の「スマートフォンの除菌」のような、手間がかかり、従来の生活ではあまり行っていなかったような対策は、実施率が低くなる傾向にあった。
感染症対策の実施状況
感染症対策の実施状況と子どもの有無との関係
「2-1」で示した19項目の感染症対策の実施状況について子どもの有無によって比較したところ、下記5項目において、高校生以下の子どものいる世帯の実施率が有意に低いことが示された。子どもがいることによる感染症対策の徹底の難しさが表れていると考えられる。
感染症対策の実施状況と子どもの有無との関係
新型
コロナウイルスの
感染経験と住まい
新型コロナウイルスの感染経験
調査協力者の約44%が本人または家族が新型コロナウイルスに感染した経験があると回答した。高校生以下の子どもの有無で比較したところ、子どものいる世帯は、子どものいない世帯より感染経験が有意に多く、感染しやすい可能性があることが示された。
新型コロナウイルスの感染経験
感染経験と子どもの年齢
小学生以下の子どもがいる世帯、全員中学生以上の子どもがいる世帯、子ども以外の人と同居している世帯の間で感染経験の有無を比較したところ、小学生以下の子どもがいる世帯は、全員中学生以上の子どもがいる世帯より感染経験有りとの回答が有意に多かった。子どもの年齢が低い世帯の方が、感染のリスクが高まる可能性があると考えられる。
感染経験と子どもの年齢
感染経験と感染症対策の実施状況
「2-1」で示した19項目の感染症対策の実施状況と感染経験の有無について比較したところ、「歯ブラシ・コップの個別管理」「適度な運動の実施」をしている世帯において、感染経験有りとの回答が有意に少なかった。これらの感染症対策は、高校生以下の子どものいる世帯の実施率が有意に低いことも示されている(2−2参考)。子どもがいて家族の人数が増えることにより、十分な感染症対策を行えず、感染のリスクが高まる可能性があると考えられる。歯ブラシ・コップの個別管理を行いやすくするために、複数の洗面台の設置(大人/子ども用、感染者/非感染者用等)、または、個別管理を行うためのスペースを確保することなどが考えられる。
感染経験と感染症対策の実施状況
感染経験と個室の数
家族の人数が個室の数より少ない世帯を「個室が足りていない世帯」と定義し、個室が足りている世帯と足りていない世帯の間で感染経験の有無を比較したところ、個室が足りていない世帯において感染経験有りとの回答が有意に多かった。また、高校生以下の子どものいる世帯において、個室が足りていないとの回答が有意に多い。子どものいる世帯では家族人数分の個室を確保することが難しい場合が多く、結果として感染のリスクが高まる可能性があると考えられる。個室が足りない場合には、例えば共用の一時隔離スペースを用意するなどの対応が求められると考えられる。
感染経験と個室の数

本調査からは、コロナ禍におけるマンション居住者の近隣との交流について、子どもの有無が交流意欲・満足度に影響を与えていることに加え、在宅勤務がそれほど近隣との交流意欲を生んでいないこと、他方で、実際の交流は在宅勤務を実施している方々において若干の増加が見られることなどが明らかになった。
また、感染症対策の実施状況と感染経験に関する調査結果からは、いくつかの感染症対策と感染の有無に関係が見られ、低年齢の子どもがいる世帯において感染経験が多くなることが示された。今後のマンション計画には、特に小学生以下の子どもがいる世帯において、感染症流行下でも安心して暮らせる工夫が求められるのではと考えられる。

近所付き合いや感染症対策という観点からも、より長く住み続けられるマンションづくりのヒントを探り、これからの「住まい」のあり方を考えていきます。

調査の概要
  • 調査内容:


    回答者属性(年齢、性別、家族構成、間取り等)
    在宅勤務の実施状況
    近所付き合いの変化、意欲、満足度
    感染症対策の実施状況
    新型コロナウイルスの感染状況

  • 調査期間:

    2023年1月18日(水)~1月31日(火)[14日間]

  • 調査対象者:

    明和地所グループ ライフスタイルクラブ会員6,687名
    *首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)在住者を対象

  • 調査方法:

    Webアンケート

  • 有効解答数・回答率:

    474票・6.74%

【本件に関するお問い合わせ窓口】 明和地所株式会社 経営企画部電話:03-5489-2620