2020-2021 東京大学・明和地所株式会社 共同研究

ポストコロナ期を見据えた
住宅のあり方に関する調査研究

明和地所株式会社と東京大学工学系研究科建築学専攻松田研究室は、昨年度までの3年間、マンションに住んでいる人の暮らし方や地域とのつながりについて調べ、これからの「住まい」を考えるヒントを探ってきました。2020年以降に流行した新型コロナウイルス感染症は、在宅勤務の導入などによりライフスタイルの変化をもたらし、これからの「住まい」を考える上でも在宅勤務が新たなキーワードとなりました。2020年4月の緊急事態宣言下で実施された在宅勤務を通して、従来の住まいの良い点や課題、改善につながる要素などが見えてきました。

在宅勤務の
実施による
日常生活の
変化
日中の生活の変化
日中の多くの時間を自宅で過ごすようになったことで、食事や時間の使い方など私生活に良い変化が見られた。
家族関係の変化
同居家族のいる世帯では、日中を自宅で共に過ごすことで、家族とのコミュニケーションや家事分担など家族関係に良い変化が見られた。
男性の家庭における役割の変化
同居家族のいる世帯では、男性は女性より家事分担の見直しについて実感しているが、仕事の合間に家事ができることのメリットは、女性ほど感じていないことがわかった。家事の分担の改善の傾向は見られたが、男女の認識には温度差があることが窺える。今後も在宅勤務が普及していけば、家族で家事を共同で行うことが期待される。
在宅勤務の
実施実態
実施状況(実施の有無、頻度、場所)
調査協力者の概ね6割が在宅勤務を実施しており、そのうち半数以上の方がほぼ毎日在宅勤務を実施していた。主な実施場所は、リビングと個室に大きく分かれた。個室利用者のうち仕事専用の部屋を確保できたのは3割程度と少数であった。
在宅勤務の満足度を高める要因
在宅勤務の実施頻度が高い、または業務に集中できるほど満足度が高い傾向にあることがわかった。
業務に集中できることで「自由に使える時間が増え」ており、私生活の質向上が期待される。
オンラインコミュニケーションの普及と課題
Web会議システムを用いてオンラインで会議・商談等を行うオンラインコミュニケーションは、多くの方が実施していた。新型コロナウイルス感染症の影響でWeb会議システムの導入が急速に進んでおり、多くの業種でリモートワークを実現していることから、今後は在宅勤務のスタンダードとして考慮する必要がありそうだ。オンラインコミュニケーションの実施者は、良好な業務環境の確保に工夫を要していたこともわかった。
同居家族の
いる世帯の
空間的制約の
問題
「夫婦1部屋想定」の想定外
子育て世帯の従来の住まい選びでは、約半数の世帯で、子どもは1人1部屋、親は夫婦1部屋といった「夫婦1部屋想定」の間取りが選ばれていた。この想定は、日中は留守にすることで成り立っていたことから、在宅勤務の実施にあたり良好な業務環境の確保に関する課題が露呈した。
夫婦1部屋想定では、夫婦それぞれが日中1人になれる居場所を確保することは難しく、このような世帯では女性の個室利用率は男性に比べて低いことがわかった。
緊急で実施した在宅勤務では食事で利用するダイニングテーブルなどを代用していたことが窺える。個室が不足する世帯ではリビングと個室を併用する事例が多く見られ、それぞれに集中できる業務環境を整備することで、夫婦が各自の個室を確保しなくても業務環境を改善できると考えられる。
夫婦1部屋想定は、子育て世帯では個室不足の課題があるが、長期間居住する中では一時的な制約であるといえる。今後の住まいの供給にあたり、家族共用のスペースとは別に、あらかじめリビングに常設の作業スペースを設置することで、子育て期の一時的な空間的制約の解消が期待される。具体的な方法として、幼少期の子のいる世帯でも仕事と子供の世話を両立しやすいキッチンカウンターの活用が挙げられる。
共用部の活用の可能性
オンラインコミュニケーションを実施する場合や子どもがいる場合には、特に住まいの空間的な制約が大きいことがわかった。その制約を緩和するため、マンションのメリットの共用部を活かしたワークスペースのニーズが窺える。
ポストコロナ期に気軽に外出できるようになっても、在宅勤務の普及などにより在宅時間が増加する傾向が推測されるため、共用部に気分転換のためのフリースペースなどを設けるニーズも高まるのではないかと考えられる。

本調査からは、従来在宅勤務を想定していなかった住まいにおいて、在宅勤務の実施に伴い生じる空間的な制約という課題が明らかとなった。特にオンラインコミュニケーションを実施する場合や個室が不足しやすい子育て世帯などは、一時的に生じる空間の不足を改善することで、十分良好な環境になり得ると思われる。共用のワークスペースやフリースペースなど、共用部を持つマンションならではの設備に対する期待も見られた。

ポストコロナ期の住まいについては、日中の在宅を想定した住まいの機能や、部屋数の補完や生活のメリハリをつけるための共用部の活用がより重要になってくるのではないだろうか。

今後も、ライフスタイルの変化や社会の変容に対応するため、人と地域をつなぎ、より長く住み続けられるマンションづくりのヒントを探り、これからの「住まい」のあり方を考えていきます。

調査の概要 2段階でのWebアンケート調査を実施。

1次Webアンケート調査
(簡易調査)
  • ・調査内容:


    在宅勤務の実施状況
    在宅勤務の実施場所
    在宅勤務が与えた影響(時間の使い方や家族関係の変化、在宅勤務時の業務環境)

  • ・調査期間:

    2020年10月13日(火)~10月31日(土)[19日間]

  • ・調査対象者:

    明和地所グループ ライフスタイルクラブ
    プレミアム会員10,432名

  • ・有効回答数・回答率:

    1,254票・12.0%

  • ・備考:

    有効回答のうち在宅勤務実施(分析対象)者は718名。
    在宅勤務実施者に対し、1次調査後に2次調査への協力の可否を伺い、協力可能な方に2次調査を実施。

2次Webアンケート調査
(詳細調査)
  • ・調査内容:


    新型コロナウイルス感染拡大期前後の在宅勤務の
    実施状況
    家族の在宅勤務の実施状況
    新型コロナウイルス感染拡大期前後の部屋の使い方
    在宅勤務における業務環境の評価
    今後の住まい(リフォーム検討等)に関する考え方

  • ・調査期間:

    2020年11月9日(月)~11月30日(月)[22日間]

  • ・調査対象者:

    在宅勤務実施者かつ2次調査への協力が可能な方
    531名

  • ・有効回答数・回答率:

    283票・53.3%

【本件に関するお問い合わせ窓口】 明和地所株式会社 経営企画部電話:03-5489-2620